4弾・7話 炎寿と徹治


 保波市の住宅街の中にあるレンガ色のプレハブ造りの七階建てマンション、『ベルジュール磯貝』。その真ん中にある四〇三号室室には夫婦と二人の娘が住んでいた。マンションの中の和室は居間として使われ、風呂場と脱衣場とトイレ、ダイニングキッチンの奥には二つの部屋があり、娘が一つずつ私室として使っていた。ダイニングキッチンの一番手前の部屋は家具やインテリアはまだら模様や二重の円といったいわゆるエスニック系で統一されており、ベランダとつながる窓は二重の円模様の朱色の布のカーテンがかかり、ベッドの上には部屋の主である少女が眠っていた。

 エスニック柄の暖色系の布団や枕カバーや毛布の中は温かく、少女はぬくぬくと夢の中にいた。と、ベッドの近くに置かれている木材の楕円型の目覚まし時計が鳴った。

 ピッピリピピー、と能天気な音が鳴ると少女がのそのそと布団から出てきて時計の指針を目にして確かめる。指針は朝の六時半をさしていた。

「ああ、そうだ。早朝ランニングの時間か……。今日も冷えるけど、やらないとな」

 少女は布団から出て、体操部の朝練がある日以外は習慣にしている早朝ランニングのために起きだす。髪はおろしたロングヘアで、サッシュ付きの寝間着、だが腰から下は赤と黒の鱗に蛇腹という姿であった。彼女はずりずりと這っていき、洗面所へ向かって顔を洗う。冷たい水で眠気が覚めて、洗顔の後は彼女の蛇尾は二本のスラっとした脚に変えた。

「眠っている時と入浴時だけだからな。本来の姿でいられるのは」

 少女はつぶやいた。また蛇女の時は瑠璃色だった髪も赤い瞳も褐色に変化して、自室に戻って早朝ランニング用のTシャツと上が赤で下が青のジャージに着替えて、ランニング用の赤地に黒ラインのスポーツバッシュを履いて四〇三号室を出る。

 マンションの階段を下りて、エントランスを出ると、薄紫色の空にまだそんなに自動車の走っていない道路と住宅街の中を走り回る。少女は十五分過ぎた所の地域で、自転車に乗って新聞配達をしている一人の少年を見かける。その少年は十六歳ぐらいで、内反りのストレートの髪、面長顔に軽くつり上がった目、細身で一七〇センチあるかないかの背丈で、ベージュのダウンジャケットに白いマフラーに青いデニムパンツに白いスニーカーは長く履いているためか茶色の汚れでみすぼらしく見えた。

(あ、今日も来ているのか……)

 少女は新聞配達の少年を目にして、彼と目が合うと軽く頭を下げる。相手の方も少女を目にすると、軽くお辞儀をした。

 七時前にマンションに帰り、紫がかった空は明け方の光で桃色が入り、少女は階段を上って四〇三号室に戻る。エレベーターは朝七時から夜一一時まで起動しているが、主に車椅子とベビーカーと老人と荷物運搬用のため、そうでない人は階段を使っていた。

「ただいまー」

 少女が中に入ると、家主の妻がシンプルなワンピースの上にエプロンを着て、朝食を作っていた。

「お帰りなさい。フェルネさん。もうすぐルミエーラ様とジザイも起きる頃ですから」

「わかった」

 少女は家主の妻から聞くと、自室に戻ってジャージから白いセーラーシャツとオリーブグリーンのダブルブレザーとからし色のボックスプリーツスカートの制服に着替える。髪もランニングの時は後ろ髪をヘアクリップで留めていたのから、黒いヘアゴムでうなじ辺りで束ねて片方の肩にかける。そして通学用の地味なアウターと赤い3ウェイバッグを持ち、ダイニングキッチンへと向かう。フェルネは蛇女としての本名だが、人間界では朱堂炎寿としての名前を使っている。

「おはよう」

「もう先に食べているよ」

 家主である恰幅のある体型にニットと厚手パンツの中年男性、炎寿と同じ制服に三つ編みの少女がダイニングキッチンのテーブルで朝食を食べていた。朝食のふりかけご飯と味噌汁と鮎の塩焼きを食べていた。ランニング後の朝食はすこぶる美味しい。

「行ってきまーす」

 朝食の後、炎寿は夫妻の娘、留美と共にマンションを出て、住宅街を抜けた大通りにあるバス停に行き、保波駅行きのバス停の前で立ち、バスが来るとその中に乗り込む。朝のバスは利用者が多く満席であったが、手すりにつかまる。

 バスが保波高校前に着くとブザーを押して、留美と炎寿は他にも乗っていた保波高校の生徒共に降車した。通学バッグやアウターはみんな違うけれど、オリーブグリーンの制服は共通だった。生徒たちはぞろぞろと二種類の校舎と体育館のある保波高校の敷地内に入っていく。

 留美と炎寿は違うクラスのため、留美は一年四組の教室に入っていき、炎寿は一年五組の教室に入っていく。

「みんな、おはよう」

 教室の引き戸を開けると、暖房のきく教室内では女子たちがおしゃべりし合ったり、男子たちがふざけ合いをしてたり、次の授業の教科書を開いている男子もいた。

「あ、朱堂さん。おはよー」

 女子の数人が入ってきた炎寿を目にして声をかける・炎寿は自分の席である後ろから二番目の真ん中の席に座りって教科書やノートをバッグから机に移す。やがてチャイムが鳴って、教室の前の出入口から担任の石沼正造先生が入ってくる。石沼先生は六〇代近くの禿げ頭に痩せた体格、丸メガネにスラックスとジャージの上を着た数学担当の先生である。

「起立、礼、おはようございます」

 朝のあいさつの後はHRに入り、その後に本日の授業が開始される。四時間目の授業の後は昼休みで、生徒たちは教室で弁当を食べたり購買部で焼きそばパンなどを総菜パンを買って食べたりしていた。炎寿も教室で真瀬家の主婦、人間姿のブリーゼが作ってくれた弁当を通学バッグから出して食べ始める。

「朱堂さん、一緒にいいかしら?」

 同じクラスの女子が炎寿に話しかけてきた。

「あ、ああ。どうぞ」

 女子二人は他の教室に行っている生徒の席に座って、弁当を食べ始める。

「あのさ、朱堂さん。磯貝四丁目で早朝ランニング、やってるんだって?」

 長い髪を赤茶色に染めマスカラなどの化粧をしているギャルの伊藤桂子が炎寿に話しかけてくる。

「な、何でそれを知っているんだ?」

 炎寿が桂子に尋ねてくると、桂子が答える。

「睦美がたまたま早く起きて窓の景色を覗いたところ、朱堂さんが走っているのを見たんだって」

 桂子と違ってセミロングの髪をゆるいツインテールにしている加賀睦美がうなずいた。睦美はあまりしゃべらず、しぐさで行動することが多い。

「あと、あたし知ってんのよ。朱堂さんが早朝ランニングしている理由」

 桂子がにやついて言うと、炎寿は何のことかという表情をしてくる。

「男子と会ってるんでしょ? 睦美が教えてくれたの」

 それを聞いて炎寿はご飯を吹き出しそうになった。何とかして飲み込むと、桂子に訊いてきた。

「だっ、男子ってあの新聞配達、のか……?」

「うん、そうだよ。睦美と同じ中学の出身で、稲川区にある桜花(おうか)高校に通っているのよ。岸尾徹治くん」

「岸尾というのか。桜花高校、って県立か?」

 炎寿が桂子と睦美に尋ねてくると、睦美は首を横に振る。

「違うよ。桜花高校は通信制の高校で、決まった日に通う高校なのよ。岸尾くんは中学二年の時にお父さんが事故で亡くなって、お母さんを支えるために有名高校の進学受験を諦めて、通信制高校に通うことになって、学校のない日は新聞配達や近所の店でアルバイトで収入を得てるんだって」

「そうだったんだ……」

 炎寿は早朝ランニングの時に見かける少年、岸尾徹治の新聞配達の理由を桂子と睦美から聞いて理解する。

(そういや人間界ではアルバイトをしている高校生や大学生がいて、一人親だったり、借金があったりして働いているのをテレビ番組で放送してたな)

 だけどそういう子たちのために奨学金や孤児のための福祉制度があることも炎寿は学習していた。

(わたしもミスティシアの海の島で暮らしていた時は、両親も兄弟姉妹もいてそれなりに暮らしていた。火山の噴火でわたしだけが生き残った時はどうしようかと本当に思った)

 火山の噴火で親兄弟も住処も失った炎寿はドレッドハデス率いるドレッダー海賊団に拾われ、留美の住まうマリーノ王国の住民を結晶の中に閉じこめ、留美を追いかけて人間界に来た時に炎寿の運命も大きく変わった。

 ドレッドハデスを倒すために留美たちの仲間となり、マリーノ王国が解放されて、炎寿は罪滅ぼしのためにマリーノ王国王国に貢献し、留美の両親に引き取られて、人間界では留美の従姉妹として生きることになった。岸尾徹治と比べると、自分は恵まれまくっていると炎寿は思ったのだった。


 磯貝四丁目と五丁目の境目の道路の前の住宅街。庭と車庫付きの一軒家に混じって、二階建ての八世帯が暮らせるアパートがあった。築三十年近くは経っており、薄茶色の壁には細かい亀裂やシミが入り、一階は主に一人暮らしの男性や老人、二階はシングル親子や一人暮らしの女性が住んでいた。

 アパートの名前は『シェアハウス宿刈』。そこの二〇三号室に母親と二人で暮らしている少年、岸尾徹治がいた。アパートの中は玄関と二畳の台所とトイレと風呂場、その奥が洋間と和室で、和室は母親の寝室兼居間、洋間は和室より一畳小さめで、クローゼットとエアコン、本棚と学習机とパイプベッドと小物を置く網ラック棚、フローリングの床には灰色のじゅうたんが敷かれ、窓はベランダと通じており、黒いギンガムチェックのカーテンで閉ざされていた。

 徹治は家にいる時は上下のスウェットを着て過ごし、学校のない日は自宅学習や家事の他、早朝の新聞配達と昼間のアルバイト先の三丁目のファーストフード店で生活していた。

「あっ、夕方の四時半になりそうだ。洗濯物しまわないと」

 徹治は壁の時計を目にすると、椅子から立ち上がってベランダに干してある洗濯物を取り込んで、母と自分とタオル類に分けてたたむ。その後はフリースのプルオーバーと黒いデニムパンツに着替えて、更に茶色のダウンベストと手袋を身につけて、キャンバス地のエコバッグを持って、室内の消灯と戸締りをしてから外階段の下に泊めてある自転車を引き出して、近くのスーパーマーケットまで走っていった。

 スーパーマーケットで買い物を終えると、窓から灯りが見えるので母が帰ってきたと知る。

「母さん、ただいま」

「お帰り、徹治。今着替えているの」

 ふすま戸の向こうから母の声が聞こえてきた。徹治はスーパーマーケットで買ってきた物を冷蔵庫に入れたりして、その後は母が夕食を作り和室のちゃぶ台で夕食を食べた。食事当番は交代でやっており、母が夕食を作った日は徹治が食器洗いや風呂掃除を担ったりとしていた。和室は六畳で、押し入れの他にテレビやエアコンや本棚やドレッサーや母用の事務机があり、出入口近くには小さな仏壇があった。仏壇には徹治に似た面影の男性の写真が置かれていた。徹治の母はふくよかな体格に天然パーマのショートヘアは全体に広がっている風貌は徹治にあまり似ていない。

「母さん、今日はどうだった?」

 徹治がチンジャオロースをつまみながら母に尋ねる。徹治の母の仕事は二丁目にある婦人靴の工場だ。

「いつも通りよ。明日は学校なんでしょ。早く寝なさい」

「うん」

 徹治の父は三年前に亡くなった。中学二年の秋に、父はトラックに轢かれそうになった保育園児をかばってトラックにはねられたのだった。父の死により、専業主婦だった母は自分と息子を養うために父の死後二ヶ月目に今の工場に就職した。また住んでいたマンションの契約を解消して中三の晩春に今のアパートに変えたのだった。マンションの家賃を少しでも生活費に回すための倹約であった。

 徹治は有名高校の進学を考えていたが、今の生活を考慮して保波市より三つ下りの稲川区の通信制高校の桜花高校に進学受験した。通信制高校ならアルバイトが可能であることから、母を支えるために今に至るのだった。


 桜花高校高校は月・水・金曜日が登校日で、徹治は朝九時に間に合うように朝七時半のバスで保波駅に向かい、電車で十分かけて更に稲川駅から歩いて五分先の商業ビル街の中にある三階建ての灰色の校舎の桜花高校にたどり着く。桜花高校は一学年に一クラスの少人数の学校で、教室内で授業を行う他、町に出て近くの総合公園で運動したり、図書館で資料集めをしたりする生涯学習も受けていた。

 同級生も徹治のように経済難だったり、前の高校での対人関係や成績不良で退学して編入した者もいた。午後二時に授業は終わり、桜花高校の生徒たちは帰りに図書館によったり、地元の菓子店でおやつを食べたりと過ごしていた。徹治は真っ先に帰宅していた。


 日曜日は火木土の朝のように四時起きの新聞配達のアルバイトもなく、朝の八時半まで徹治は寝ていた。朝食を済ませて洗濯物を干して午前の自宅学習も終えて、昼食後に気晴らしで保波の町を出歩くことなった。登校日は稲川区の学校、それ以外は新聞配達のアルバイトの後に仮眠と家事とファストフード店のアルバイトと自宅学習が当たり前になっていた徹治にとって、地元に住んでいるのに地元のことはあまり浸ってないのもあって、休日の保波市は全く別に思えた。

 徹治は三丁目と二丁目間にある公園に来ていた。そこの公園は噴水の出る像のある憩い場と大きな滑り台とブランコと雲梯と砂場、後ろにはシイやプラタナスなどの樹が植えられて冬の今は木の葉もない。

 徹治はこの公園に足を踏み入れ、遊んでいる幼児や小学生、ベンチで休んでいる老人や犬の散歩に来ている主婦を目にしつつもぼんやりしていた。

(たまにはこうやって、のんびるするのもいいな)

 公園で一時を過ごすと、徹治は平日と違い少ない自動車が走る道路や自転車に乗る中学生などにまじって、自分の家へ戻る途中、偶然出てきた薬局からドラッグストアから出てきた少女を目にして足を止める。

「あ。君は……」

 ドラッグストアから出てきた少女も徹治を見て立ち止まる。少女は早朝ランニングのジャージではなく、赤いエスニック柄のニットパーカーと渦巻き模様のロングスカートに赤い横じまのワッチ帽をかぶっていて帽子から長い髪が垂れ下がっていて、両手で紙袋を抱えていた。

「や、やあ。荷物重そうだね。家に着くまで持ってあげようか?」

 少女は最初は断ったが徹治が言ってるので、徹治は彼女の家の近くまで買い物品を運んであげることにした。

「あの、わたしに学校に君と同じ中学出身の女子がいて、君のことを教えてくれた。岸尾徹治というんだろう?」

「ああ、そうなんだ。ぼくは稲川区の桜花高校に通う。改めて訊くけど、君は……」

「朱堂炎寿。四丁目にあるベルジュール磯貝に住んでいるんだ」

「ベルジュール磯貝……? ああ、あそこ中三の春までぼくと母さんはそこに住んでいたんだ。父さんが亡くなってからは、四丁目の住宅街にあるアパートに引っ越したんだ」

「そうだったのか……」

 それを聞いて炎寿は徹治の話を聞いて気の毒に思った。

(もし岸尾の父親が生きてたら、わたしと同じ学校までとはいかなくても、同じマンションの住民として生活してたんだろうか?)

 そんなことを考えていると、懐に入れていたシュピーシェルが鳴って、その音に徹治が反応する。

「ちょっと待ってくれ」

 炎寿は徹治にそう促すと、電柱の陰に隠れてシュピーシェルを取り出して開いた。シュピーシェルの上蓋にアクアティックファイター姿の留美が映し出される。

『炎寿、マサカ=ハサラが出たの! 場所は舟立の船着き場よ!』

「何だって? わかった、今行く!」

 炎寿は通信を終えると、徹治に言った。

「すまないが、その荷物をベルジュール磯貝の郵便受けの所まで置いてくれないか。わたしは急用が出来た。じゃあ!」

「え、あの……?」

 徹治は駆け足で舟立の船着き場へ向かう炎寿の背を見て呆然となる。

「そんなこと、言われても……」


 舟立の船着き場では留美と歩歌と法代がフナムシ型のハマヤーンの群れに囲まれてピンチに陥っていた。フナムシのハマヤーンは大きさは一メートル近くもあり、大した攻撃は仕掛けてこないが高速で動くのだった。船着き場では一そうの船のデッキに巨漢のカウィキテフが来ており、今回の任務は生物や鉱物の回収ではないが、一般人をハマヤーンに襲わせて留美たちを捕らえる計画であった。留美たちは三人に対し、ハマヤーンは八体。数では勝てない状況であった。

 留美たちは自分の周囲を走り回るハマヤーンの倒し方に悩んでいた。と、その時だった。ハマヤーンの四体が突然の爆発によって吹き飛んで粉々になったのだった。

「まさか、お前は……」

 カウィキテフと留美たちがこの攻撃を仕掛けてきた者を目にする。船着き場の桟橋の上には変身した炎寿がいたのだ。

「炎寿、助かったよ!」

 留美たちが駆けつけてきた炎寿を目にして喜ぶ。その時、残りのハマヤーンたちが炎寿の方に向かって突進してくる。

「バイパー=ヒートピラー!!」

 炎寿は地面から火柱を出す技を出してきたが、ハマヤーンは予測していたかのように赤い火柱を障害物のように避けてしまう。

「マーメイド=トリアイナスラスト!!」

「セイレーン=フォルテシモウェーブ!!」

 ハマヤーンの後ろから光を帯びた三筋の水流と歌声の混じった超音波が走ってきて、ハマヤーンはその衝撃を受けて吹っ飛んでひっくり返る。留美と歩歌が援護してきたのだ。

「ウィーデッィッシュ=エナジーバインドロック!!」

 法代が地面から海藻型エネルギーの綱を出してきてハマヤーンを拘束する。

「みんな、ありがとう。とどめはバイパー=ヒートエクスプロード?」

 炎寿は指をはじいて炎の爆撃を出し、ハマヤーンは爆ぜて体が縮んで、普通のフナムシに戻った。

くそっ。お前らを一人別々にしてしまったのが間違いだった。撤退だ!」

 カウィキテフはくやしがってこの場を去っていった。

「いや〜、炎寿さんが後から来てくれたおかげで、ピンチを免れましたよ。ありがと〜」

 法代が炎寿に礼を言ってきた。

「わ、わたしこそ私用があってだな……。だけど」

 炎寿はチャームが変化した武器を持っている留美たちを目にして沈黙する。

「わたしだけが、まだ……」

 武器持ちでないことに劣等感を抱く。

「そんなに気にしないで。炎寿ちゃんだって必ず……」

 歩歌がフォローをする。

「確かにそうですね」

 法代がその様子を見て呟いた。

「だけどもチャームの武器化なんて、みんなきっかけも時期もバラバラだったし」

 留美は手を顎に添えて唸った。


 それから四人は普段の姿に戻って解散し、留美と炎寿はマンションへ帰る途中、炎寿が現場へターンした場所に徹治が立っていた。

「岸尾、何で?」

「何でって、君のマンションの住民に住んでいないぼくが荷物を届けるのは怪しいと思って待ってたんだよ……」

「それはすまなかったな。岸尾だって私用があるんだしな」

 炎寿は徹治から買い物の紙袋を受け取ると、徹治は炎寿に別れを告げた。

「それじゃあ、ぼくはこれで……」

 去っていく徹治を見て、留美は炎寿に話しかけてきた。

「炎寿、いつからあの子と親しくなったの?」

「え、え〜と、それはその……」

 夕方の町中で多くの人々が行き来する中、炎寿はうろたえた。

「あ、勘違いしないで。訊いてみただけだから……」

 留美は戸惑う炎寿に言った。

「岸尾徹治とは、早朝ランニングの時によく顔を合わせるようになったんだ。それでな、岸尾は父親が亡くなっていて……」

 帰り道を歩きながら、炎寿は徹治のことを留美に教えたのだった。