6弾・8話 敵が自分で大切なのは?


 法代は女子の体育の着替えに使った一年六組の教室に戻って自身の制服のシャツの胸ポケットに入れていたライトチャーム、スカートのポケットに入れていたブローチ型の〈進化の装具(エヴォリュシオン=ガジェット)〉を取り出して、近くに誰もいないのを見計らってライトチャームを念じて緑色の光に包まれて変身する。

 灰茶色のツインテールに緑の眼、海藻をあしらった薄緑と緑のレイヤードドレスの衣装をまとった法代のアクアティックファイターの姿である。

 法代は教室を出ると更に廊下の窓から這い出ると他の生徒や教員たちにバレないように中庭に出た。保波第二中学の中庭は石畳で敷かれた場所にハードプラスチックのベンチが設置され中庭の中心には学校で飼われている赤や三色の鯉が泳ぎ、生徒たちの憩い場であった。

 法代は中庭に人影が真後ろにいて法代に気づかれると急いで駆け出してしまった。しかしアクアティックファイターになった法代は妖精としての力が本領発揮されるだけでなく、普段は運動神経がないけれど変身すると身体能力も上がるため転んだりつまづくこともなくなるのだ。

 法代は中庭につながる駐車場を出て自分に昨日の出来事や体育で使うハードルばらしの濡れ衣を着せた人物が中学校の近くの空き倉庫に逃げ込んだのを目にして一般人に気づかれないように民家の屋根をつたって追いかけていった。

 空き倉庫は普段は誰にも入れないように後ろ以外の三方を鎖で囲っているが、法代は空き倉庫の天井近くの空いている窓から入って床に着地した時は溜まっていた埃が舞った。倉庫は契約者が持ち主のオーナーから許可を得ることで使用できるが、現在は一年近くも使われてないため埃が溜まりクモの巣も張られていた。

 舞い散る埃の中と窓から入ってくる日光で薄暗い倉庫が照らされる中、法代は相手の姿を目にする。

「そんな……!」

 それは普段の法代だったのだ。髪型も服装も昨日の夕方と同じで余裕の笑みを浮かべていた。するともう一人の法代がオリジナルの法代に向かって言ってきた。

「あら、変身もしてたのね。ならわたしも同じにしないと」

 もう一人の法代はそう言うと、周りに砂と土塊を出してそれが渦状となって包むと、もう一人の法代が変身した法代と同じになる。ただし髪の毛が赤茶色で海藻モチーフが赤紫色になっていた。対戦格闘ゲームの2Pのように。

「あなたなんでしょ、昨日わたしのフリをしてお母さんや澄ちゃんや織ちゃんにわたしにたいする疑いをかけたのは」

 法代はもう一人の自分に訊くと法代の複製体はこう答えてくる。

「そうよ。わたしはあなたたちの言う〈禍を起こす者〉の使いよ。それにあなたの願望の化身でもあるの」

「が、願望!?」

 偽者の自分は何を言っているのだろう、と法代は思った。偽者がオリジナルに身の覚えのない罪を着せようとしたのはわかるけど、願望の化身というのが上手く理解できなかった。すると複製がせせら笑って法代に向かって攻撃してきた。法代が持っているのと同じフレイルを出してきた。

 法代もライトチャームをフレイルに変えてコピー法代の出してきたフレイルの伸びた先端を緑色の波動、ウィーディッシュ=エナジーウォールで防いでコピー法代は空いた左手で床に手をつけると海藻型エネルギーの綱、ウィーディッシュ=エナジーバインドを出してきた。オリジナルの法代と違って赤紫色の海藻であった。

 法代はコピー法代の出してきた技に捕まらないようにと防御を解除してフレイルを伸ばして倉庫の梁に引っ掛けて回避した。だがコピー法代が海藻の綱を伸ばしてきて、法代の左足首に海藻が絡んできた。法代は足を引っ張られてフレイルの鎖がほどけて落下。しかし法代はコンクリートの硬い床に叩きつけられる前に、ウィーディッシュ=エナジーウォールを左手から出して衝撃を防いだのだった。

 波動の反動で法代は弾き飛ばされるが高所から叩きつけられるよりはマシと判断したものの、斜め四方から赤紫色の海藻の綱が伸びてきて、法代の手首足首を拘束した。

 コピー法代はオリジナルの法代を捕まえると、冷たい笑みを浮かべながら法代に問いかけてくる。

「もうやめちゃえば? 動けないじゃないの」

 両手両足を塞がれて法代は口を一文字にしてコピーに睨みつけてくる。

「わたしの言う『やめちゃえば』っていうのは、オリジナルの義務のこと。学校、勉強、店番、子守、家事。本当は気楽に過ごしたいし、面倒事は一切したくない。家族や友達はオリジナルと入れ替わったわたしをどう思ってくれるか知らないけど」

「?」

 オリジナルの法代はコピー法代の台詞を聞いて背筋に悪寒を走らせた。コピー法代が悪いことを企んでいることに。

「まさか、わたしに成り代わって家族や友達に禍をかけるんじゃ……」

「そりゃあそうよ。他に何があるっていうの?」

 せせら笑うコピーを見て法代は〈進化の装具〉の発動がこないかを待っていた。

(〈進化の装具〉、わたしの家族や友達の想う気持ちに何で応えてくれないの? わたしピンチなのよ。お願いだから応えてよ!)

 法代の左胸のブローチは反応しなかった。

(どうしよう、わたし本当にこのままやられちゃうよぉ……)

 法代の目の前ではコピー法代がフレイルを伸ばしてきて左手でピンと伸ばして不敵な笑みを浮かばせていた。

法代の目の前ではコピー法代がフレイルを伸ばしてきて左手でピンと伸ばして不敵な笑みを浮かばせていた。法代の中に物心ついた時からの記憶がグルグルと巡ってきた。死にかけている人間の中で想い出が湧いてくるという走馬灯だろうか。父や母や弟、祖母や澄子や織音、アクアティックファイター同士の留美と歩歌と炎寿も流れていた。

(偽者なんかに今の立場を奪われたくない……。わたしだって、留美さんみたいに恋愛したり歩歌さんみたいに夢に向かっていったり炎寿さんみたいのように自分の為になることを知っていきたいのに……)

 そんな法代の中に昨日祖母が発した言葉が蘇ってきた。

「それは自分で探し出すこと」

 その台詞に法代は気づいたのだった。

「そうか、そうだったんだ――」

 オリジナルの法代はクックッと喉を鳴らしながら自分が大切だと思っている何かにようやく気付いて、コピー法代に向かって、いや自分の中の苦悩や行き止まりの気持ちに叫んだのだった。

「わたしが大切なのは……、家族や友達や今の生活を想っているわたしだったんだ! 大切なものは自分以外とは限らなかったんだ?」

 法代が叫ぶと左胸のブローチの石が盛大なエメラルド色の光を発し、コピー法代の眼をくらませた。

 エメラルド色の激光が治まるとコピー法代の前に〈進化の装具〉で進化した法代が立っていたのだ。手足の拘束も激光によってかき消され、以前とは違った衣装をまとっていたのだ。

 薄緑のベルスリーブの丈の短い頃もの上に緑色のビスチェがあてられ衣の下には緑色のバルーンスカート、両手首は深緑色のショートグローブ、足元は薄緑のサポーターと深緑色の足首ベルトパンプス、頭には

三又槍型の金色のティアラが戴かれ緑色の飾り石と海藻型のフリルが施され、左胸には〈進化の装具〉が煌めいていた。

「自分が大切だと自覚して進化した、だと……!? 変わったのは見かけだけではないの!?」

 コピー法代が〈進化の装具〉と自身の徳の理解で進化したオリジナルの法代を目にして口汚く罵った。コピー法代は初期の戦装束のままでフレイルを法代に向けて伸ばしてきた。法代もフレイルを出してきてコピー法代の周囲に海藻型エネルギーの綱を出すウィーディッシュ=エナジーバインドを出してきてコピー法代を拘束しようとしてきた。

 コピー法代もウィーディッシュ=エナジーバインドを繰り出してきたが、オリジナルが進化した分だけ強化されており、緑色の海藻が赤紫を締め上げてかき消してしまい今度はコピー法代が不利になる。

「そんな、お前は軟弱で頓馬だと思っていたのに……」

 コピー法代が強化された法代の技に後ずさりすると法代がコピー法代の周囲に海藻の群、ウィーディッシュ=エナジーバインドイクスパンドを出してきて、海藻の群がコピー法代を捕縛して法代はフレイルを持ってコピー法代はエメラルド色の波動に包まれて?み込まれていった。波動が治まるとコピー法代は砂と土が混ざったような色となって、ザラザラと崩れ落ちたのだった。

「まさか土と砂の塊で出来た偽者だったとはね……」

 法代は進化した自分によって倒されたコピーの果てを目にして呟いた。おそらく〈禍を起こす者〉が影や風や土砂といった自然物資を操ってアクアティックファイターたちの前に送り込んで、更に彼女たちの関連人物に禍を起こしているのだとしたら……?

 そう感じた法代だったが、まだ学校の途中だったことに気づいて倉庫を飛び出していって学校の目立たない場所で変身を解除して、校庭で体育の授業を行(おこな)っている面々の前に現れたのだった。


 昼休みになり保波第二中学の生徒たちは教室や校庭のへり、中庭のベンチで家から持ってきた弁当や途中の店で買った昼食を食べて過ごした。

「先生やみんなに許してもらえてよかったね」

 織音が体育の授業開始前に飛び出していった法代に言った。法代が校庭に戻ってきた後、体育の先生も他の生徒たちは法代に「どこに行っていた」ときつく??ってきたが、澄子と織音が擁護して弁解してくれたのだった。

「ハードルを解体したのが根谷さんでないことはよくわかりました。だからといって冤罪証明のために授業を抜け出してはいけませんよ」

 体育の先生はそう許してくれた。三人で昼食を教室で食べ合っていると澄子が法代に尋ねてきた。

「昨日わたしや織音の家に法代が来て玄関ドアを開けたらいなくなってたのは、法代によく似た女の子が間違えてきちゃったのかしら?」

 法代は自分の偽者が土と砂の塊の人形(ひとかた)であることは黙って返事をした。

「多分……そうだと思うよ。あっちだって悪気はなかったんだし」

「それなら仕方がないよね。でも法ちゃんの悪ふざけじゃなくて良かった」

 織音も呟いた。学校が終わると法代は店番と弟の世話のために早足で下校していき、途中でスカートのポケットから覚醒した〈進化の装具〉のブローチを取り出して見つめた。

「これからもよろしくね」

 法代は自宅の花屋に着くと制服から普段着に着替えて自宅学習しながら店番をした。夕方に母が配達から帰ってきて法代はベランダの洗濯物をしまって畳んで、自室の机の引き出しから小箱に入れた青い透明な石の指輪を見つめた。それはミスティシア内のマリーノ王国出身の妖精、クーレーからもらった物であった。

 クーレーは半年近く前の冬、法代と出会ったアザラシの毛皮を被って水中移動をするローン族で、行方不明の父を探しに人間界にくるも、希少生物や珍生物をコレクションする組織、マサカハサラに捕まるも法代たちアクアティックファイターに助けられて更に行方不明だったクーレーの父も見つかって、今から一ヶ月前に親子でミスティシアに帰り、別れ際にクーレーは自分の生命力を映す石の指輪を法代に渡したのだった。

 留美の家で人間界の留美の父を務めているジザイは時々ミスティシアに戻って、留美の実父のムース伯爵に現状報告をすることがあるから、次にジザイがミスティシアに行く時はクーレーに便りを渡してもらおうと法代は考えた。ミントグリーンの地に魚や貝やヒトデの模様の便箋にクーレー宛の手紙を書き始めた。

「クーレーへ。お元気ですか。わたしは元気で小学校からの友達も同じ中学校に通って、店番もしなくちゃいけないけど元気にやっています。クラブは茶道部で……」