1弾・3話 救い手の伝説


 夕日が沈んで空が瑠璃色に染まった夜になると、小鳥のさえずりや城に勤める人たちの声も聞こえていた昼と違って、夜は沈んだように静かだった。外気も冷たく稜加とデコリは格子から入ってくる空気に震えていた。

「こんなに寒いんじゃ、眠ることすら辛いよ」

 その時、月明かりで照らされていた格子の隙間の影に大きな人型の影が入って遮ってきた。稜加とデコリは誰か来たと察して、天井近くの格子に目をやる。そこには一人の若い男が格子窓から顔を覗かせていたのだ。

「あ、あなたは……」

「しっ、静かに。君だろ? 女王が昼に捕まえた侵入者というのは」

 青年は小高く澄んだ声を出して稜加に尋ねてくる。

「そ、そうですけど……」

「あとそれと、そこのスピアリー」

「デコリのこと?」

「そう、これをこの子に渡して」

 デコリは青年に呼ばれて、青年は浮いてきたデコリに一枚の板を渡す。デコリは青年から板を受け取り稜加に渡された物を差し出すと、それはデコリが入っていた本と一緒に風呂敷の中に入っていた板と同じ物だった。色は白い半透明で、大きい人型が小人になる絵が浮彫されていた。

「これをスターターにはめて、画面の下の真ん中を押すんだ」

 青年は稜加に板の使い方を教えた。スターターというのはデコリが入っていた本のことらしく、稜加は青年の指示通りにし、スターターをはめる所の一ヶ所に板をはめ込み、画面下の真ん中を目にする。そこに小さな灰色の長方形があり、稜加はそこに手をかざす。すると、スターターが発動したしたのか、画面から白い光の粒子が出てきて稜加に降り注がれる。すると稜加の体がみるみる小さくなって、二十五センチぐらいの背丈のデコリより小さくなったのだった。

「ええっ、どういうこと!?」

「〈スモライズ〉のマナピースで小さくなったんだよ」

「えええ!?」

 デコリのセリフを聞いて稜加は驚く。すると青年がデコリに言った。

「その子とスターターを持って、ここまで来るんだ」

 デコリは青年の言葉に従って小さくなった稜加とスターターとマナピース入りの風呂敷を持って浮かび上がり、格子窓から抜け出すことが出来た。格子窓の隙間は精霊は抜け出せるが人間は出られない幅だった。青年は月明かりで昼間の兵士と同じ鎧を着ており、杏子色の段差の入った髪に切れ長の水色の瞳、細長い唇、黄色がかった肌に長身の姿で、美男子のようだった。

「〈スモライズ〉を使わないと、ここから抜け出せなかったからな。さぁ、格子から出るんだ」

「あ、ありがとう」

 稜加はデコリに抱かれたまま青年に礼を言う。青年はデコリと小さくなった稜加を連れて厩へ向かい、黒い馬を荷車につなげて青年は鎧を脱いで荷車の中にある木の空き箱に入れ、更にもう一つの空き箱の中に稜加とデコリを入れる。

「ここに隠れてろ。城を出るから」

「わ、わかりました」

 そう言って青年はふたをかぶせて荷物を積むと、馬を操って城を出たのだった。箱の中には金網の空気穴があり、箱の中は真っ暗で音しか聞こえず、稜加は突然の異変のあまり、疲れて寝入ってしまったのだった。そデコリも稜加が眠ってしまうのを見て、自身もスターターと呼ばれる本の中に入って休眠に入った。

 青年が城門をくぐろうとした時、門番の兵士が青年に尋ねる。

「おい。こんな夜中にどこへ行くんだ。この国では城の兵士でも日の入り以降の外出は禁止されているんだぞ」

「すみません。でも、実家にわたしが直接送りたい品物がありましてね……」

 青年がそう言うと、もう一人の門番が二つの箱の中身を開けて確かめる。一つは青年の着ていた鎧と兵士の使う鉄の剣。もう一つは小樽に入った果実酒や玉菜や果実菜、干し果物の入った皮の袋であった。

「よし、怪しい物は入っていないな。出ていってもいいぞ」

「ありがとうございます。ではここに戻ることがあったら、通行手形をもらうための嘆願書を送りますので……」

 そう言って青年は荷車に乗って馬を操り王城を出ていったのであった。青年の乗った馬車は城の門、城下町、草原を越えて、ある村へ向かっていった。


 稜加はゴトゴトという大きな物を動かす音で目が覚めた。上に覆いかぶされていた物が外されてまぶたを開いた瞬間、暗かったのがいきなり明るくなって青年が顔を覗かせる。

「もう出ていいぞ。ここは安全な地だ」

 稜加は眠っている間に小さくなっていた体が元の大きさに戻り、またスターターも手元にあって開いて画面を覗いてみるとデコリもいて、今は眠っていると知ると箱の中から出た。

「ここは……」

 稜加がいたのは真っ白な漆喰の天井と壁に白やパステルカラーのカーテンにベッドなどの家具、床はピンクの白いレース模様のじゅうたんで、天井からは銀色のシャンデリアがつり下がっていた。部屋の大きさは稜加が最初にいた王城の部屋の一室よりも小さいが、稜加の部屋の二倍はあった。そして部屋のロココ調のような白い机が置かれ椅子には一人の少女が座っていた。

「よく来てくれました。サヴェリオ、この子を連れてきてくれてありがとう」

 少女は色白の肌にエメラルド色の垂れ目の瞳、卵に目鼻の美人で、金髪を後ろでお団子状にし、フリルやレースのついたパールグレイのドレスを着ていた。

「初めまして、異世界からの救い手よ。わたしはレザーリンド王国の王女、イルゼーラ」

「イル……ゼーラ? あっ、もしかしてあの女王が言っていた亡くなった王様の連れ子のお姫様!?」

 稜加がイルゼーラの名を口にすると、青年が注意してきた。

「失敬な。この方は王国の姫だぞ。口を慎め」

「いいのよ、サヴェリオ。この子はわたしと共にレザーリンドの災厄に立ち向かってくれる仲間なのよ。大目に見てやって」

 イルゼーラ姫が青年、サヴェリオに言った。稜加はイルゼーラ姫とサヴェリオの関係にピンとこなかった。

「あの〜、二人の関係ってどういう……」

 するとサヴェリオはきつい口調ながらも稜加に言った。

「おれとイルゼーラは従兄妹だ。イルゼーラの亡くなった母親がおれの叔母なんでな」

「ああ、だからか。あ、そうだ。改めてサヴェリオさん。わたしを地下牢から連れ出してくれてありがとう」

 稜加はサヴェリオに礼を言うと、サヴェリオは表情が頑なまま照れた。

「べ、別にいいってことよ……。まさか異世界からの救い手が王城に来た時は女王に捕まったままだとマズいと思って、おれが隙を見て来たんだからな」

 サヴェリオの様子を見てイルゼーラ姫がクスクスと笑う。

「サヴェリオは意地っ張りな所があってね、大目に見てやってちょうだい。あなたの名前を教えてくださいな」

 イルゼーラ姫は稜加に訊いてきたので、稜加は姫に自己紹介をする。

「わたしは一ノ瀬稜加。日本という国の栃木県にある織姫町の出身で、中学三年生で年齢は十四歳です」

「十四歳ね。わたしはもうすぐ十六歳で、サヴェリオは十八歳よ。わたしは王城内の大臣や兵士の子供たちと一緒に十四歳までは城内学院に通っていたの」

「はぁ、お城の中に学校があるなんて珍しいですね」

「稜加、敬語は使わなくていいわ。わたしたちは仲間なのだから。ああ、これから大事な話をするから、ちゃんと聞いてね」

 イルゼーラ姫はエルザミーナの世界に災厄が訪れた時に異世界から現れし救い手とその仲間たちについて語り始める。


 エルザミーナの世界では古来から国の一つに災厄が訪れた時、天からいくつかの光がいずれ災厄が訪れる地に救い手の素質や資格がある者に救い手の力を与えていた。

 時期によっては救い手の数が三人だったり六人だったりと異なるが、今はエルザミーナの大国の一つ、レザーリンド王国に災厄が訪れ、天からの五つの光が放たれた。そのうちの一つはレザーリンド王国を通り過ぎて空の彼方へ向かっていった。残りの四つはレザーリンド王国内の四方に注がれていった。この時イルゼーラ姫は九歳で母を重病で亡くした頃で、当時の占い師によれば現在災厄が訪れる時として占われ、天の金の光に選ばれた異世界の者が招かれし時だった。


「わたしとイルゼーラ姫がレザーリンド王国の災厄から救ってくれる天に選ばれし者? だけど救い手の力って何? もしかして精霊のデコリが入っていた本が救い手の証なの?」

 イルゼーラ姫の災厄から救いし者の伝説を聞いて稜加は納得するも、まだわかりづらいところがあったので、尋ねてくる。

「スターターはマナピースの力を発動させるために古代のエルザミーナの人間が創りだした道具よ。マナピースは水や炎といった自然の力や能力変化させたりするエルザミーナでは当たり前に使われている神力(しんりょく)の破片のことよ」

 イルゼーラ姫は稜加にスターターとマナピースについての説明を教える。稜加が小さくなったり、祖母の遺品の本と一緒に入っていた板はマナピースだと知り理解した。

「でも〈救い手〉ってのは……」

「精霊と一緒に災厄と戦う人間のことよ。〈証〉をスターターに入れて発動させるのよ」

 それからイルゼーラ姫は自分の首に提げていた金色の正方形のペンダントを取り出して、板状のペンダントトップを左右に開くと、白に虹色の入った板状の物――マナピースを見せた。それは人間と精霊を合わせたような絵の浮彫が刻まれていた。

「これよ。わたしもそんなに使っていないのだけど。あなたも持っている筈よ」

 稜加は箱から出る時に持っていた風呂敷の中を探って、マナピースを一枚ずつ確かめる。その中にイルゼーラ姫が持っているのと同じマナピースがあった。

「あった……。これを使うと、どうなるの?」

「それは……。でも稜加。あなたにはこれからやるべきことがあるでしょう」

 イルゼーラ姫に言われて稜加は顔を上げる。

「やるべきこと? 救い手として、他の仲間を探して災厄を払うこと?」

「それもそうだけどね……。まずは今日の食事と旅の準備よ」

 それを聞いて稜加は軽く「はぁ……」と言った。確かに言われてみればそうだ。エルザミーナの世界に来て女王に捕まって牢屋に入れられて、でもサヴェリオに助けてもらった後、そのまま眠ってしまったのを最後に、牢屋の食事も粗末だったこともあって、稜加はイルゼーラ姫の言っていることは正しいと思った。


 稜加はイルゼーラとサヴェリオに連れられて、食堂にやってきた。サヴェリオの実家のアレスティア侯爵の屋敷は部屋は二十もあり、王城ほどではないが家具も内装も立派で、使用人もメイドや庭師やコックと十人もいた。

 食堂は一度に十人が座れる長テーブルに白いクロスがかかり、壁紙もじゅうたんも照明も美しい装飾であった。稜加は席の壁側の真ん中に座り、白いフリルの頭飾りに白いエプロンと黒いワンピース姿のメイドが料理を運んでくれた。

「どうぞ、召し上がれ」

 イルゼーラは稜加にすすめた。白い陶器の大きな丸い平皿に丸く持った白米のご飯に黄色いソースのかかった豚肉っぽいソテーにレタスやキュウリのような野菜を使ったサラダ、他にオレンジ色のポタージュが入ったスープ皿、紅茶みたいな飲み物の水差し、デザートらしいピンクとクリーム色のお菓子は透明なガラスの器に入っていた。

「へ、へえー。レザーリンド王国でもライスプレートがあるんだ」

 稜加は差し出された食事を目にしてイルゼーラに尋ねてきた。ちゃんとフォークとナイフとスプーンも数種ある。

「え? レザーリンド王国では一つのお皿に上にサラダとご飯と肉か魚があるのは普通なのよ。稜加のいた世界ではご飯もサラダもメイン料理が別々に盛られているの?」

「うん。ご飯はお茶碗で、サラダもおかずも別々に分けられているし……」

「ああ。稜加のいた世界ではそれが普通なのね。さぁ、食べなさい」

「いただきます」

 稜加は手を合わせてあいさつをし、フォークを取ってサラダを口にし、ソテーをナイフで切り分けて食べた。

「うわー、何これ? おいしいよぉ」

 稜加はソテーを一切れ口にすると、肉の旨味とソースの辛さに舌鼓を打って、もぐもぐと平らげた。

「ごちそうさま。いやー、いっつも休日の昼ご飯や毎日の夕飯を作っている身とはいえ、久しぶりに自分で作った以外の豪勢な料理を食べるのは」

 稜加はイルゼーラに料理の感想を述べると、イルゼーラ姫は尋ねてくる。

「稜加の家庭状況って、稜加が炊事しているの? お母さんは?」

「あ、うちは両親が共働きで亡くなったおじいちゃんの残したクリーニング店を経営していて、わたしが家の用事や弟妹の世話の世話をしていて……」

 稜加は自分の家での暮らしをイルゼーラに話すと、しょんぼりする。

「わたしだって本当は学校のクラブ活動に参加したかったし、一ヶ月後に一度でいいから一人で過ごしたい日が欲しかったし、中学三年生になって受験する高校だって決まっていないし……。

 そしたらいきなり知らない世界に来ちゃって、どうしてこうなって、って……」

 イルゼーラは稜加の話を聞いて稜加の気持ちに情けをかける。

「稜加。今はレザーリンド王国の危機を救うことが先よ。明日には出発できるようになるから、それまでにエルザミーナの世界のことを学習しておいたら?」

「それって、どういう……」

「わたしが今いるアレスティア村の様子を見てみる?」


 稜加はイルゼーラと共にアレスティア侯爵の屋敷を出て、アレスティア村を目にする。

「わぁっ……」

 屋敷は村内の小高い丘の上にあり、そこから村の様子が目に入った。緑や青や赤の屋根の家々が並び、畑では農夫が馬や牛に鋤を引かせて畑を耕し、果樹園では桃やブルーベリーによく似た果物を木からもいで背負い籠に入れる農家の女の人、家畜を荷車や荷馬車に引かせたりする他、丸みを帯びた昭和時代の自動車のような車も走っていた。また村人もつなぎやオーバーオールなどの作業向けの服や仕立てのいいジャケットやスラックスを着た男性、シャツワンピースやブラウスにスカート姿の女性といった人々を目にしたのだった。そして村の北部には白樺のような木の林と深い青の湖畔があった。今は温かい日の光に空気がほんの少し冷たく感じた。

 稜加はイルゼーラと共に村の商店地区にやって来た。パン屋からは香ばしい匂いが漂い籠の中には細長や丸などのパンが販売されており、魚屋は金盥にサケやマスによく似た川魚が氷水と一緒に入れられ、時計屋では置時計から柱時計が売られ文字盤は稜加の世界と同じく十二あり、食器屋では美しい絵付けの陶製の食器がショーウィンドウに飾られていた。

「ここが本当に災厄に見舞われているの? どう見ても平和に見えるんだけど」

 稜加はアレスティア村の様子を見てイルゼーラ姫に尋ねる。

「ええ。ここは首都や副都市と違って、女王の権力が振るわれていないから」

「え? 首都や副都市では何か物騒なことが起きてるの?」

「ガラシャが女王になってから、都市部では増税や法律の厳重化で国民の生活を悩ましくさせているのよ」

「あの女王のせいで? もしかしてイルゼーラって継母とはいえ、ガラシャ女王に何をされたっていうの?」

 稜加がガラシャが女王になってからはレザーリンド王国の都市部では国民の生活に問題が出ていて、継母と王の連れ子の関係とはいえイルゼーラに何があったと訊くと、イルゼーラは深刻な表情をして答えてきた。

「……今は言えないけど、後で話すわ」

 稜加とイルゼーラが歩いていると、幼い子供たちが二人の方へ駆け寄ってきた。

「イルゼーラさま、こんにちは」

「ああ、みんな。ごきげんよう」

幼い子供たちはイルゼーラの隣にいる稜加を目にして、イルゼーラに訊いた。

「イルゼーラさま、この人は?」

「え、あの、わたしは……」

 稜加は幼い子供たちに自分のことをどうやって説明しようとあふためいていると、イルゼーラが答えてあげた。

「彼女はエルザミーナの世界に災厄が訪れた時に異世界から現れた救い手よ」

 それを聞くと幼い男の子の一人が稜加を見て言ってきた。

「ホント? あの、お姉さんが本当に世界の救い手なら、レザーリンド王国の生活を楽にしてくれる?」

 稜加は何のことかと首をかしげると、男の子は言い続ける。

「おいらの父ちゃん、樵なんだけど女王の命令でよその国に行かされたんだ。おいらだけなく、他の樵の子も何人かが父親がよその国に……」

(ああ、そうか。本当はお父さんが近くにいてほしいんだけど、女王の命令は絶対逆らったりしたら仕方なく、か。親と暮らせない子はどこの世界でも同じなんだな)

 そう思うと稜加はエルザミーナの世界の一つに起きた災厄を打ち払うためにかつていた世界から呼ばれたのなら、レザーリンド王国の住民のために応えようと決めた。

「うん。災厄が何なのかはまだわからないけど、みんなのために頑張るよ」

「えっ、本当?」

「稜加、あなたが自分から言うのを待っていたわ」

稜加の意志を聞いてイルゼーラも子供たちもわずかな望みを持ったのだった。


 稜加とイルゼーラは一軒の店に着いた。そこは衣服店で、中はパステル調で広く、棚やカウンターには色々な服が置かれ、キャスターのハンガーにはワンピースなどの服がかけられていた。

「いらっしゃいませ……。あっ、イルゼーラさま」

 店員の若い女性がイルゼーラを目にしてかしこまる。店員も華やかな色と柄のブラウスとスカートを着ていた。

「わたしが来る度、そんなにかしこまらなくてもいいのよ。あと、この子はわたしの新しい友達なんだけど、引っ越してきたばかりでこの村に相応しい服を持っていないから買いに来たのよ」

 イルゼーラは稜加を店員に紹介し、稜加はレインコートとレインブーツ、その下に着ているベストとシャツとキュロットのままでいたことに気づく。自分の着ている服はレザーリンド王国の人々とはかけ離れていると。

「わたし、お金持っていない……」

 稜加が困ると、イルゼーラが言った。

「わたしが出してあげるわ。好きなのを選んで」

「いいの? ありがとう」

 イルゼーラの言葉を聞いて稜加は安心して、レザーリンド王国の服を手に入れることが出来た。

 稜加が選んだ服は薄いピンクの長袖肩出しのトップスにレースがついた白いキャミソール、裾にリボンがついた水色のハーフパンツに足元は白いハイソックスと茶色の編み上げハイカットブーツ。それからトップスと同じ色のサークルハットというガーリッシュながらも動きやすい服装だった。

「まーっ、稜加かわいいわ! よく似合っているわよ」

 イルゼーラがレザーリンド王国の服を着た稜加を見て褒める。稜加は自分が考えていたコーディネートの絵と同じ服が着られたことに悦び、稜加の服選びが終わると二人は別の店に移動する。その店は衣服店よりも小さめの店舗であったが、多くの人々が出入りしており、店の中はガラス窓と店の中に備え付けられた棚には商品が置かれていた。

 棚には浅い長方形のアクリルのような箱の中には稜加が持っている透明な板が二、三十枚も入れられており、箱によって色や浮彫が異なっていた。箱の下にはレザーリンド王国の主要文字のヴェステ文字で商品名と値段が書かれていた。

「ここは?」

「この店はマナピースショップ。生活に使用するマナピースを売っている所よ」

 イルゼーラが稜加に説明する。

「マナピースには属性というのがあって、赤なら炎、青なら水というようにその属性による効果が出るの」

「数字が書かれていたけど、単位は?」

 稜加はマナピースの値段の単位をイルゼーラに尋ねる。

「タラスはレザーリンド王国とその周辺の通貨単位で、一タラスは青銅貨、十タラスは赤銅貨、百タラスは銀貨、千タラスは紙幣で、金貨はルーで一ルーが一万タラスよ」

「へぇー……。てことはマナピースの種類によって値段が違うんだ。やっぱりレア度が高いと、マナピースの値段も高いんでしょ」

「そうよ。金属や鉱石と同じように」

 稜加とイルゼーラはマナピースをいくつか買うと、店を出て屋敷に戻ろうとした。帰り道の途中、稜加の前に一枚の紙が舞ってきて、受け取るとそれは呼び出し状のようだった。

「あれっ、この紙どこから……。ねぇ、これなんて書いてあるの?」

 稜加は呼び出し状をイルゼーラに見せる。

「今日の昼二時、アレスティア村の空き地で待っている。ボルカーニ……」

 イルゼーラが呼び出し状の内容を読んで教えてあげた。

「ボルカーニって人? 精霊? どっちなんだろ」

「行ってみないとわからないわ。でも、これが女王の仕組んだ罠だとしたら危険が高いわ」

 イルゼーラは稜加に伝えるが、稜加は一瞬ためらうも決めた。

「わたし、行くよ。これが罠だとしても、やらなきゃいけないような気がするの」

 不安だけど、自分でないとできないような気がして、そう決意したのだった。