6弾・1話 暗闇へのプレリュード



 仄かな紫色の空の東の彼方から太陽が顔をのぞかせる。中央にドラキラナ山、その周囲には森や草原を残して造られた金属とコンクリート材のビルや住宅や店舗や学校などの公共物が盤上の駒のように建てられたガイアデス大陸の中心にあるエリヌセウス皇国――。

 森と草原と街の他にも曲線状や直線状の川、大小のシミのような池や湖、街外れの灰茶色の岩場や荒地という風に神の箱庭のような国だ。その国の中の中部辺りのエルネシア地方北東部に位置するドルツェン地区の森林部には一軒の廃工場があった。

 その廃工場はさほど大きくないものの、周囲を有刺鉄線で囲まれ、エリヌセウス国の主要言語アリゼウム語で『立ち入り禁止』という札がかけられていた。

「ここがダンケルカイザラントへの入口の一つなのか?」

 プラチナの短髪に白い肌、翠の眼の多方人種の少年がこの廃工場に案内してくれた者に尋ねてくる。

「ああ、そうだ。ダンケルカイザラントは主に人の住まない場所に臨時基地と本拠地への出入り口を造る。それらは主に廃墟や工場、スクラップ場にカムフラージュされている」

 背の翼とたてがみが渋緑で金の一角を額に持ち、白金の表甲に体を覆われた一角有翼の融合闘士(フューザーソルジャー)の青年が四人の少年少女と彼らと融合する融合獣に説明する。森の中は木の枝はほとんど枯葉で散っていて、地面には黒い土に混じって赤や黄色の葉が散らばり、根元には冬に咲く小さな草花がいくつか花弁を見せていた。明け方のため空気は刺すように冷たく、息を吐く度に白くつく。

 彼らの目の前の廃工場は屋根は所々孔が空きいており窓枠が外れていたり窓が割れていたり、壁には亀裂が何十本も走り一〇年というよりは何十年も忘れ去られているように見えた。

「でも……、どこから入るんですか? 『立ち入り禁止』って書かれているし、周りは有刺鉄線だらけだし」

 えりなしベルトコートに花柄ストールを身に付け白群の髪に桃色の眼に白い肌の和仁族の少女が一角有翼の融合闘士に訊いてくる。

「そうだったな。実はちゃんと入れるんだよな」

 そう言うと札を軽く押すと、何と札が外れて四方一ゼタン半(一五〇センチ)程の四角い枠が現れたのだ。

「簡単に入れないという訳ではない。一人ずつ入っていくんだ」

 融合闘士に促されて少年少女たちは枠を抜けて廃工場内の敷地に入っていった。最後に融合闘士が入り、一同は廃工場を見上げる。

「これがダンケルカイザラントへの入口の一つね……」

「出入り口の一つでしかないのに、見ただけでゾクゾクしやすね……」

 年長者とおぼしき薄紫の長い髪に青い眼に中間肌の少女と彼女の相棒である水色の剣魚(ソルディッシュ)型の融合獣が呟く。

「それじゃあ入ろうか」

 融合闘士が少年少女と融合獣に言うと、工場の中へ入る。

 工場の中は埃と蜘蛛(アラネス)の巣だらけで、中にある機械のコンベアや計量器も埃をかぶっており、建物の奥には大型モニターとコンソールが付いていた。ただの工場ではなく本当に基地のようだった。

「ふっ……うっ」

 明褐色の髪に中間肌に金色の眼の少女がふらついた。

「どうした、ジュナ!? まだ超変化の疲れが取れていないのか」

 少女の相棒の白い竜(ヴァイセドーリィ)型の融合獣が少女に尋ねてくる。

「お腹……空いた……」

少女が言うと一同は「あっ……」と思い出したかのように発した。すると 融合闘士が、

「やれやれ、そうくると思っていたよ。僕がここを夜露を凌ぐ場所として使っていたから食糧はあるよ。食べておかないと体力が出ないからね」

 そう言って少年少女たちをモニターのある部屋で待たせて、仕入れてきた食糧のボール紙箱を持ってきた。

「え、これどこから持ってきたんですか……」

 金髪の少年が融合闘士に訊いてきたので、融合闘士は答える。

「ダンケルカイザラントの食糧庫の一角からだよ。僕は一ヶ月に一度本拠地に乗り込んで備蓄食料を手に入れてくるのさ。といっても、日持ちのする缶詰や保存食ばっかりだけどね」

「……色々ワケアリみたいね」

 長髪の少女が融合闘士に言うと、一角有翼の融合闘士は普通に働いて稼ぎで生活したくてもできない状態なのだと悟る。

「それでもないよりはいい。食べましょう」

 先に空腹を主張した少女が言った。ボール紙箱の中身は見事に缶詰めや銀色のパック、乾燥モグッフ(乾パン)やゼルド(ジェリー)状などといわば災害や避難時の食物ばかりだった。中身は汁漬けの果物や油漬けの魚の切り身、塩漬けにゆでたベキャなどの葉菜やキャロなどの根菜、ゼルド食品はストベやラズベなどの数種類の果物味があった。味付けの濃すぎる物は感想モグッフと一緒に食べて味を薄めて食べて災害時の炭酸入りボトル水もあったので喉の渇きを潤した。

 一同は食べ終えると、一角有翼の融合闘士がまとめるために指示を出す。

「じゃあ行こうか、ダンケルカイザラントへ」

「でも出入り口は……」

 和仁族の少女が言うと融合闘士は咳払いして答える。

「僕についていけば見つかる。ただ、これだけは覚えていてくれよ。入ったら敵の親玉を潰すまでは戻らない。いいな?」

 さっきまで穏やかだった融合闘士の口調が急にきつくなったのを聞いて四人と四体は一瞬怯むも頷いた。学校から非難を浴びせられて追い出されて、そのうえ親に黙ってダンケルカイザラントの融合闘士と戦いに行ってきたのだから。敵の本拠地に行ったら終わるまで進むという覚悟。もう後戻りはできない。

「行きます」

 明褐色の髪の少女が答える。

「ジュナが行くというのなら僕も行くよ」

「何もせず帰るよりは、問題を終わらせてから帰りましょう」

「以下同文」

 金髪の少年、和仁族の少女、長髪の髪の少女も答える。もちろん彼らと融合する融合獣たちも彼らの後について行く。

「全員同じ意見か……。行こう」

 一角有翼の融合闘士が先頭に立って進行する。廃工場の作業室から廊下、地下一階の事務室には蜘蛛の巣や埃まみれの金属机や鉄パイプ椅子が数脚あり、金属の本棚も相当汚れており、本などは一冊もなかった。

「この本棚の後ろに出入り口があるんですかねぇ?」

 和仁族の少女が言うと、一角有翼の融合闘士は首を振る。

「本棚の後ろ、というのは古い考えさ。ダンケルカイザラントはどこに本拠地への道を作ったのかというと……」

 融合闘士は並んでいる机の真ん中の二つを壁側にずらし、更に上座の机を本棚の方にずらした。すると机のあった場所に大きな四角い亀裂があり、そこには鉄の上蓋があってそれを開けると、階段が現れたのだ。

「なるほど。普段は机で隠しているが、ここの元工場主と一部の人間しか知らない、ということか……」

 金髪の少年が隠し扉を見て呟く。

「では行こう。暗き帝国(ダンケルカイザラント)へ」

 一角有翼の融合闘士を先頭に、四人と四体は階段を降りていく。道は暗く階段は四角く下るように出来ており、一同は何十回も直角状に降りていく。

「階段って昇るのがしんどくて下る方が楽だと思っていたけど、下る方も何十回も続きゃあ疲れるわ〜」

 長髪の少女が息を切らしながら呟き、他の少女もハァハァ言いながら階段を降りる。暗い階段を下りていく中、ようやく白い光が見えてきた。足を踏み入れるとそこは天井に三〇歩ごとに設けられた円盤状の電灯、壁も床も青みがかった銀色の長い通路だった。

「で、この後どうするんですか?」

 金髪の少年が尋ねてきたので、融合闘士は返事をする。

「このまま真っ直ぐ進んでいくんだ。

 ダンケルカイザラントの出入り口はエリヌセウス皇国の各地にあるが、一つの建物とつながっていると考えてくれ。ここはまだ出入り口の途中なのだから」

「わかりました。歩いていきます」

 金髪の少年が言うと、一同はまた歩き出した。階段と違って明るく広い通路になにか出てきそうだと予防しながら。途中曲がったりもしたが一方通行のようだった。もう何時間歩いて何万歩歩いたのかわからない。

 通路がようやく終わった時、カツカツカツと複数人の足音の響く音が聞こえてきた。

「止まれ!」

 一角有翼の融合闘士が叫んだ。ようやく通路が終わったと思っていたら、教室二、三個分の広さの空間に銀色の金属の階段付きの吹き抜けになっている場所に黒い蝶(ピレクレオ)型の蟲翅族融合獣と一体化した多方人種(ノルマロイド)の女が数十人の男女を率いて現れた。黒い蝶の融合闘士の女が率いている男女は年齢・人種・性別・体型・身長・髪も目も肌の色も異なるが、共通は白濁色の装甲を胴体と四肢と頭部にまとっていた。

「な、何だこの人たちは!? というか、あんたはこの前のザネン区の文化センターで出会った……」

 金髪の少年が武装した人間の男女を見て目を丸くするも、武装兵の指揮官とおぼしき女融合闘士を見て叫ぶ。

「そうだ。以前お前に打ちのめされたイリューネと融合獣スピゲルトだ。エルニオ=バディスと融合獣ツァリーナ、私は一度お前たちに敗れた時、ダイロス様の処罰によって派遣士から国守備兵長になった。だが、ここでおしまいにしてやる!」

 武装した兵士たちが右腕のガントレットと一体化した連射銃の銃口を向ける。

「こ、この人たちはなんなんですか? 人間そっくりの機械兵(インスタロイド)なんですか?」

 和仁族の少女が一角有翼の融合闘士に尋ねる。

「いいや、彼らは人間さ。ダンケルカイザラントの人間兵、ゾルダロイドさ」

「ゾルダロイド?」

 長髪の少女が初めて聞く言葉を聞いて首をかしげる。

「戦争や災害孤児、ストリートチャイルド、浮浪者、天涯孤独者や脱獄犯、身寄りのない身障者、犯罪予備軍の未成年者がダンケルカイザラントに拾われて組織に忠誠を誓、あらゆる訓練と強化改造を受けて機甲をまとった姿さ。

 そして優秀な人間兵(ゾルダロイド)は融合獣を与えられてダンケルカイザラント所属の融合闘士になるのさ」

 一角有翼の融合闘士が少女たちに教える。

「そうだ、元は人間兵(ゾルダロイド)もお前たちと同じ普通の人間だった。機械義肢に強化剤投与、大戦訓練を施されている。

 こいつらはここに四〇人、他にも一〇〇人強はいる。ここを通りたければ、我々を倒してみろ」

 イリューネが少女たちに宣告する。

「どうしやす、姐さん?」

「やるしかないでしょ。どんな相手だろうと……」

 水色の体の剣魚型の融合獣が薄紫の髪の少女に言うと、少女は前へ出る。

「やれる、羅夢?」

「やってみる……じゃなくて戦う!」

 桃色の毛並みに耳長尾長の小型獣も融合獣が和仁族の少女に訊くと。少女は気合を入れる。

「多勢に無勢っていうけれど……」

「もうここまできたんだ。前進あるのみ」

 緑色の羽毛に金色の翼と尾羽を持つ鳥型融合獣と金髪の少年。

「行くぜ、みんな!!」

「もちろんだとも!!」

 白竜の融合獣が他の三体に言い、明褐色の少女も叫ぶ。

「融合発動(フュージング)!!」

 四人と四体は同時に叫び、青い渦潮、桃色の花吹雪、翠色の疾風、白い光の柱に包まれると、彼らの頭部・腕・脚・胴体が変化して、渦潮と花吹雪と疾風と光柱が弾け散ると、融合獣と一体化した四人の少年少女の姿が現れる。

 水属性のソーダーズと融合したトリスティス=プレジットは水色の剣魚の頭部と鋭角なヒレを背と腕と脚に持ち、腰には鋭い尾ひれ、両脛には琥珀色の契合石が煌く。

 樹属性のジュビルムと融合した宗樹院羅夢は長い耳と尾を持ち四肢も獣のようになり全体的に桃色の体の腹部には若葉色の契合石が煌く。

 風属性のツァリーナと融合した黒一点のエルニオ=バディスは翠色の鳥の頭部と金の翼と尾羽、四肢が蹴爪状に変化し、喉には水色の契合石が煌く。

 無属性のラグドラグと融合したジュナ=メイヨーは竜頭竜腕竜脚竜翼竜尾の白い姿に変化して、胸に明紫の契合石が煌く。

「やれっ」

 ジュナたちが融合闘士に変化した処でイリューネが人間兵に命じ、人間兵は銃口をジュナたちに向け、高度エネルギーの弾丸を乱射する。集中豪雨のような音が鳴り響き、ジュナが彗星型のエネルギー盾、彗星防壁(コメットバリアー)を出してエネルギー弾を防いだ。エルニオが翼を羽ばたかせて、右手に風の力を込めて大きく振るって竜巻を起こす豪風昇拳(テンペスターブロークン)を放ち、一度に一〇人の人間兵を吹き飛ばして飛ばされた人間兵は壁や床に叩きつけられて失神する。

 エルニオが吹き飛ばした人間兵とは別の一〇人がトリスティスに向かってきて左腕のガントレットに仕込まれた剣を出してきて襲いかかってくる。トリスティスも両腕に装備された剣で人間兵の刃を受け止めて、左腕で攻撃を受け止めたのなら右腕で人間兵の腹部に峰打ちをかまし、左脚を重心にして右脚で回し蹴りを浴びせて峰打ちと蹴りを交互に繰り返して瞬殺させる。

 羅夢にも別の一〇人の人間兵が目の前に現れるが羅夢は腹部の契合石に右手を当てて植物のツル状のムチを出してきて跳兎の強い脚力で跳躍し、ツルのムチを天井の梁に引っ掛けて大きく揺れて階段上の足場に着地する。人間兵が羅夢のいる方向へ追いかけるが羅夢は壁から幾多の植物のツルを出して植物のツルは固い壁をぶち破って人間兵を拘束する。羅夢の拘束技、蔓縛封(アイビーシール)である。羅夢の拘束技で身動きがとれなくなった人間兵は羅夢が母方一族譲りの陰陽術で人間兵を眠らせる。植物の葉や花などのエキスを調合した安眠用の花香液をばらまいたのだった。

 ジュナにも一〇人の人間兵が襲いかかるが、ジュナは力を加減して人間兵のうなじに手刀を入れたり溝尾に拳を入れたりと失神させる。六人倒した処で残り四人の人間兵がジュナにエネルギー弾の銃口を向けて弾を撃ちはなってきた。しかしジュナは掌から水晶の礫を出して放つ竜晶星落速(クリスタルスターダスト)を人間兵に向けて放ってきたのだ。白い半透明の結晶弾が人間兵の装甲につき刺さり中には銃口に入って暴発して右腕が黒焦げになった人間兵もいたが彼らは叫び声を上げずにそのまま気絶した。

「うーん、いくら改造を施された人間とはいえ、攻撃を受けても声を上げないのはかえって不気味だな……」

 エルニオが自分が倒してきた人間兵の様子を見て呟く。

「彼らはダンケルカイザラントに忠誠を誓っているだけでなく、強化改造の影響で苦痛も感じない感覚と忠誠と無情以外の感情も失ったといってもおかしくないんだ……」

 一角有翼の融合闘士がダンケルカイザラントの人間兵の特徴をジュナたちに教える。

「……だとするとそこにいるお姉さんも元は人間兵なのに感情とか個性があるのは何ででしょうね?」

 羅夢がイリューネを見て問う。

「ぞ……人間兵(ゾルダロイド)から融合適応者になった者は昇進の証として個性開放を施されているからいいのよ! それはまあおいといて……、一気に部下を片付けるとはねぇ……」

 イリューネが複眼の下の二つの眼をジュナたちに向けて睨みつけてくる。

「私の役目はあんたたちを我が首領のいる場所や基地の動力コンピューターの処へ行かせないこと。かかってこいやぁ!!」

 イリューネが階段上の足場の金属門の前に立ちふさがる。

(どうしよう。まさか一人ずつダンケルカイザラントの融合闘士を相手にしなくちゃいけないの?)

(そんなこと俺に言われても……)

 ジュナとラグドラグが一体化したままヒソヒソ話をしていると一人の融合闘士が前に出る。

「ここは僕が相手になる。一人の融合闘士を複数で相手していたら、それこそ時間の無駄じゃないか」

 出てきたのはエルニオだった。イリューネはエルニオ見て睨みつけてからほくそ笑む。

「あんた一人が私の相手か……。まぁ、あんたにはこの間の怨みがあるしね」

 そう言ってイリューネは四枚の黒曜の翅を動かしてエルニオの前に立つ。

「エルニオ、ごめん……。先に行っているよ。だけど終わったら来てよ!」

 ジュナがエルニオに言った。エルニオは任せろと言うように中指と人差し指を立てて主張する。ジュナ・羅夢・トリスティス・一角有翼の融合闘士はイリューネとの戦いをエルニオツァリーナに委ねて自分たちは次のエリアへ行くための鋼鉄の門の前に立つ。

 鋼鉄の門はダンケルカイザラントの者しか入れないように暗号を入れないと入場できない仕組みになっていた。そこでトリスティスが両腕の刃に水の力を込めてたたっ斬る技、海割破戒(スクリューイングブレッジ)を出して鋼鉄の門を破壊した。門は水圧で歪んだ楕円に空けられ、四人の融合闘士が中へ入っていった。門の向こうは当然、通路のなっていた。目の前を見てみると五〇〇ゼタン先(一〇〇メートル)の通路が左右に分かれていた。

「このまま進んでいけ!」

 一角有翼の融合闘士がジュナたちに言った。

「え、でも……」

「いいから進め!」

 ジュナたちは言われたまま左右に分かれ目まで直進に走る。すると、右と左に六人ずつ人間兵が現れる。

「また来ました!」

「もう邪魔者は一掃するだけよ!」

 羅夢とトリスティスが人間兵を見て叫んだ。羅夢は最初の時と同じようにツルを壁から出して蔓縛封(アイビーシール)で人間兵を縛り、トリスティスも両腕の刃で人間兵に峰打ちを浴びせて気絶させていく。

「二人共早いや。でもどっちが親玉のいる場所と通じるの?」

 ジュナが一角有翼の融合闘士に尋ねる。その時羅夢が耳を研ぎ澄ませて右の通路を指差す。

「右の方から大きな音がゴウンゴウンって聞こえてきます。右はおそらく動力源室とかにつながってるんでしょうか」

 聴力の高いジュビルムと融合しているため、羅夢の聴力を高くなっているのだ。

「となると残るは左に行けばいいのかしら」

「行くぞ。迷っている暇はない」

 ジュナが考えていると一角有翼の融合闘士が三人に声をかける。四人は通路の左を選び前進する。

 それから何ノルクロ(分)経っただろうか。壁と床と天井に挟まれた通路を出ると、足場が金網状の足場になり、天井と床が何ゼタンも離れていて、足場が六マス状のエリアにやってきたのだ。足場のマス目の部分にはクレーンや溶接機や機械アームなど重機が動いていて、金属枠と下半分の外壁だけだとはいえ銀色の飛行艇が組み立てられていた。溶接機からオレンジ色の火花が散る。

「ここは……、乗り物の工場?」

 ジュナが飛行艇の造られているのを目にして首をかしげる。

「戦闘用の飛行艇だよ。水に強いカリュバダイトや鋼などの金属を合わせて造られている。ここはどうやら製造プログラムを施されているから人の手で造られている訳じゃない」

 一角有翼の融合闘士が教える。

それでもジュナたちは全速前進して、工場を抜ける。


 台形状に造られたダンケルカイザラントの司令室では幹部と首領が人間兵の一人からこのダンケルカイザラント基地に侵入者が来たことを伝えて聞かされる。

 上段にカーテン越しに映る首領、中段には長髪の青年と女と巨漢の三幹部、そして下段に報告しに来た人間兵と階級別に立ち位置が決まっている。

「ダイロス様ならびに三幹部様、このダンケルカイザラント本拠地に侵入者が現れました」

 人間兵の男が首領と幹部に伝える。

「ユリアス・ガルヴェリア・マレゲール。お前たちも出動せよ。始末しても構わぬ」

 カーテン越しから聴こえる重たくて恐ろしい男の声が三幹部に伝える。

「御意」


 ジュナたちは宇宙艇工場の他にもダンケルカイザラント内の施設や設備を次々と目にしてきた。空陸海の生物の要素を持つ機械兵(インスタロイド)の生産工場はベルトコンベアで次々と出てくる様子を目にし、白い半透明の液体と複数の生物の遺伝子を培養して数十の透明な筒の中で成長するブレンダニマの工場、内側からは見えない仕組みのなっている窓の向こうにはダンケルカイザラントに連れてこられた女性や子供らが人種国籍問わず白い拳大の石を金ヤスリで削り、布で磨いている姿を目にした。

「あの石は何?」

「あれは契合石の元になる古代アルイヴィーナ人の化石のかけらだよ。溶解した人間の遺伝子情報と急速再生組織皮膚などの人工生体パーツで新たな融合獣を造りだせる」

 ジュナが尋ねると一角有翼の融合闘士が答える。今から五〇万年前のアルイヴィーナ星はフェズナーと呼ばれる人間が鳥や獣や魚と融合することで生活を多種多様にしてきた。巨大隕石の衝突でフェズナーや旧アルイヴィーナ星の生き物は滅び、長い年月をかけて新しい生命や文化や文明が誕生して今のアルイヴィーナ星となった。

 二〇〇年前のアルイヴィーナ星の科学者がフェズナーの化石を発見して人工生体パーツに組み込んで人間と融合する人工生物を造ったのがラグドラグたち融合獣の始まりであった。

 かくいうラグドラグたちも二〇〇年前のアルイヴィーナ人で敵の異星人を倒すために戦士兵になったが負傷し、融合獣の記憶と性格形成の元にされた。そして契合石を抜かれたり斬首されない限り不死の人工生命体となった。

「早くいえばダンケルカイザラントは融合獣とブレンダニマと機械兵でアルイヴィーナを征服しようとしている。僕が知っているのはこれくらいだ」

 一角有翼の融合闘士が言うと、ジュナたちはますますダンケルカイザラントを止めようとする気持ちが湧いてきた。

(終わらせよう。ここにいる人たちにも地上にいられる幸福を知ってもらいたい)

 契合石の元を研磨されている幼い子供や若い女性を見てジュナは心に決めた。