2弾・5話 ハーフズ星の秘密



 街で情報収集から戻ってきたリブサーナとドリッドはミニーシュート号をウィッシューター号の中に戻し、徒歩で艦長ら四人が向かっていった無人地へ進んでいった。艦長が持っている携帯端末の発信源を頼りにし、艦長との合流に向かっていった。やがて二人は森の中へ入り、見事な大破を受けた宇宙連合軍の小型偵察艇を見つけた。

「ひどい……。こんな衝撃を受けたら、流石のレプリカントも助からないんじゃ……」

 リブサーナが破片だらけになった偵察艇を見つけて、まだ真新しい硝煙と燃料のきつい匂いを嗅いで片手で鼻と口をおおった。

「いや、偵察艇が爆破する直前に逃げたんだろう。流石に逃げ遅れはしないさ」

 ドリッドが偵察艇の破片を見つめながらリブサーナに言った。すると、茂みの一ヶ所から艦長が出てきた。

「艦長、無事合流できて良かったっす。ブリックとアジェンナとピリンは?」

「あの三人なら、ピリンが召喚した妖獣で脱走兵の跡を辿っている。三人の携帯端末の発信源を頼りにして、わしらも追いかけるぞ」

「ラジャ!!」

 リブサーナとドリッドは号令し、先に行ったアジェンナ達の後を追った。森の中に入って大分経った頃、艦長の携帯端末から聞き慣れない着信音が鳴った。激しい超音波のような音は艦員(クルー)に非常事態が発した時に鳴る音である。艦長は急いで端末の画面の通信アイコンを叩き、通信に入った。画面からアジェンナの顔が出てきて、艦長に助けを求めてきた。

『艦長、助けてください! 私達、敵に襲われて……きゃっ!』

 画像のアジェンナの左こめかみに何かが当たって、その拍子でアジェンナがよろけ、画像の中に人間型(ヒューマンタイプ)星人なのに背丈が一メートルしかない人間の姿を目にしたのだった。その種族は髪の毛が緑色で個人によって濃淡はあるが肌は誰もが青灰色で、服は獣の皮や鳥の羽毛や草葉を合わせたようなものを着ており、石や木を削った武器を持っていた。

「なっ、何だ、あいつらは!?」

 ドリッドは端末の画像に映った連中を見て声を張り上げる。そこで画像が消えて通信が途絶えた。

「あ、アジェンナ!? アジェンナーッ!!」

 リブサーナはアジェンナの通信中断を見てうろたえた。

「落ち着け、リブサーナ。そういう時はブリックやピリンにな……」

 ドリッドが自分の携帯端末を使って、ブリックとピリンに連絡しようとしたが、雑音が入るばかりで映像が出てくる事はなかった。

「なぁぁぁぁっ!? あいつらもやられちまったのかーっ!?」

 ドリッドが驚いて叫ぶ様子を見て、リブサーナも叫んだ。

「ええーっ!? どうすんのーっ!?」

「落ち着け二人とも! 三人の端末の発信を当てにして助けに行けばいいの事。行くぞ!」

 艦長が謎の種族にメンバーがやられてパニックになっているリブサーナとドリッドを制した。艦長は携帯端末の通信機能を当てにして、ブリック・アジェンナ・ピリンの現在地を探した。ところが……。

「あん? アジェンナのしか反応せんぞ?」

「ええっ!? じゃ、ブリックとピリンの端末は壊れたんですか?」

「あの緑の髪の小人に?」

 アジェンナしか該当しなかったと聞いて、ドリッドとリブサーナが声を上げた。

「つべこべ言っとらんでアジェンナの所に行くぞ」

 艦長は二人にそう言うと、二人を率いてアジェンナのいる場所へと向かって森林の奥深くへと入っていった。

 森林は奥に入れば入るほど木の枝の茂みが増し、空の明るさがどんどん薄れていく。時折、木の幹や枝にハーフズ特有の虫達が止まっていたり、鳥がさえずるのを目に下が、二色や三色の模様だった街の生き物と異なって、ごく薄い赤や青や緑の体や羽毛を持っていた。

 地を這う蟲も多足や翅があったりと様々であったが、彼らは木の根元に生えた無地や模様入りのキノコや石の裏に止まっていた。踏みつける土もサラサラで柔らかく、暗い場所にあるからこそ、このような特有の自然なのだとリブサーナは実感した。

 三人が森の中を進んでいると、黒地で滑らかな幹と枝のある木の陰から一人の姿で出てきた。

「脱走兵か!?」

 ドリッドはぶら下げていた携帯銃(ハンドライフル)を持ち、銃口を向けた。

「やめてよ。仲間に銃を向けるなんて、冗談にも程があるでしょ」

 聞き慣れた女の声だったので、三人はハッとして木の陰から出てきた人物を目にした。

 長い紺の髪、水銀のように垂れた二本の触角、背中の透明銀の薄翅、紫の飾り石が付いた銀色の胸鎧、鎧下の紫のビスチェと黒いレザーホットパンツを身に着けた若い女――アジェンナだった。アジェンナは左こめかみから赤い血を流し、白い素肌の腕脚や胸元や腹部には細かい傷がいくつも走っていた。

「アジェンナ、一体誰にやられて……」

 リブサーナは傷だらけのアジェンナを見て訊ねる。

「傷の手当てをしてやらんと。水は艇から持ってきたもので」

 艦長がリブサーナとドリッドに指示を出す。水はポーチの中の小型水筒でアジェンナの傷周りの汚れを拭い、救急キットケースの消毒スプレーを吹き付け、一番大きい左こめかみの傷は布絆創膏でふさいだ。

「アジェンナ、ブリックとピリンはどうしたんだ?」

 ドリッドが傷の手当てをしながらアジェンナに訊ねる。

「ああ、それはだね……」

 アジェンナは三人にピリンが召喚した妖獣ロスワンデの嗅覚を頼りにレプリカント脱走兵の匂いを追って、森林の奥へと入っていった。森林の奥深くは白灰色の岩と土でできた山のふもとだった。その山は近くから見ると絶壁のようらしく、しばらく観察していると、緑の髪に青灰色の肌をした六人の男達が現れ、石弓や鋭く尖らせた木の槍を投げつけてきたという。

 アジェンナとブリックは自分の手持ちの武器である長剣と槍で応戦するも、男達は自分よりも小柄なのに片手で剣や槍の刃先を受け止めたという。そしてあっさりと押し返され、その隙にピリンは男達によって袋に入れられ、男達はしばらくアジェンナとブリックを見つめていたが、その種族の特有らしき言語で言い合ってからアジェンナに武器を向け、ブリックには堅く編んだ縄を投げて括り付け、男の一人がブリックの腹に拳を入れて気絶させたのだった。アジェンナのこめかみの傷はその時に出来たものだった。

「あの連中は通信機だけでなく、私やブリックの剣や槍、ピリンも袋に入れて逃げていった。私はもうダメだと思って、艦長を探しに来たのよ」

 アジェンナの話を聞いて、艦長は表情を険しくし、ドリッドは引き、リブサーナはあ然とした。

「体は小さいのに強い……。昆虫のアリも自分より大きい餌を持ちあげられるし」

「そういう奴らなんだろうな。てか、あいつら二人をどうする気なんだ?」

 リブサーナとドリッドは小男の話を聞いて、何の為にブリックとピリンを捕らえたのか考える。

「一刻も早く二人を探しに行きたいところだが……。空が暗くなってきたな。夜に探したらかえって危険が増すしな」

 艦長が森の上空から見える空の様子を見て、リブサーナ達に言う。空は白から沈んだ青、沈んだ青から紫に変わっていくのを目にした。

「ハーフズ星では昼は過ごしやすいが、夜は冷え切って体に負担がかかるしな。一度、ウィッシューター号に戻って朝まで待たなくてはな」

「はい、艦長」

「そうっすね。この暗い中で待つ、ってのも。寝袋やテントも持ってきていないし」

「……」

 アジェンナとドリッドもリブサーナも艦長の意見に同意し、四人は引き返して朝になるまでウィッシューター号で待機する事にした。

 リブサーナはブリックとピリンの事を心配し、数百メートルおきに振り向いた。

「リブサーナ、安心しろ。ハーフズはこれでも夜は六時時間で、明るい時間が二倍もあるんだ。朝は直ぐに来る。ピリンだって、ブリックがいてくれるし……」

 艦長が二人の安否を気にするリブサーナに声をかけた。

 ウィッシューター号に戻ったリブサーナ達は、アジェンナは真っ先に傷の本格処置をする為に入浴し、リブサーナが炊事を務めて、キッチンでこの間の惑星で手に入れた獣の肉を使って調理した。艦長とドリッドは艦内のコントロールパネルでブリックとピリンの端末の発信機を頼りに探るも、雑音と映像乱れでつかめなかった。


「う……。ここ、どぉこ……?」

 ピリンはぼんやりとした頭と目をはっきりさせると、薄暗い歪んだ半円型の部屋の中にいる事がわかった。壁や床はざらざらしていて岩壁を削って掘られたものだと感づいた。床は草で編んだ敷物が敷かれ、ピリンはここに寝かされていた。

「ピリン、やっと目が覚めたか」

 部屋の隅によりかかって片膝を立てて座るブリックがピリンに話しかけた。

「ブリック、ここ、どこ? ピリンたち、どーしたの?」

「どうやらあの小さな連中に捕まって放り込まれたようだ。私の真上に小さな窓があるが、ピリンでも出られない」

 ブリックが指を上に差して、ほんの少しの風とぼんやりとした光が入り込む窓をピリンに教える。

「ん〜、そっか〜。でもしゃあ、なんであのあおいひとたちは、ピリンとブリックをちゅかまえたの?」

「ああ、そういえばそうだな。連中が我々と接触した時、奴らは私とアジェンナをじっと見ていた。そして、彼らの言語で『男の方を捕らえろ』と言っていたらしいな」

「ピリンにはまだわかるぉ。小さい子のほうがひとじちにさせやすいし。なんでアジェンナじゃなかったんだろ」

「さぁなぁ……。それより私もピリンも武器や端末、他の道具も連中に取り上げられて、逃げる事も艦長と連絡する事も出来ない。どうしたらいいものか」

 ブリックがピリンに言うと、二人がいた部屋の壁がズズズ……と音を立てながら、左右に分かれたのだ。ヒューマン型星人より超越した体力を持つブリックでも動かなかった岩が動いたのだ。

 そこに先程の緑の髪に青灰色の肌に獣皮や羽毛や草葉の服をまとった小人(しょうにん)種族(しゅぞく)が何人か入ってきたのだ。岩は内側から出は動かせない仕組みで、部屋の外側から小人族が持ち前の怪力を使って動かしたのだ。

「○△×☆◎◆▲!」

 男の一人が獣が唸るような特有の言葉を発して、二人に出るように言った。

「なんていっているの?」

「どうやら『ここから出て、ついて来い』と言っているらしいな」

 ピリンとブリックは部屋から出て、冷たい空気が吹き付ける外に出られた。外は深い紫色の空になった夜になっており、空も紫雲で覆われていた。何よりブリックとピリンが驚いたのは、岩の塊が森の中にある平地にいくつも積まれ、それが彼らの家や様々な部屋や倉というのがわかった。

 住民達は男も女も老人も小柄で緑の髪と自然物の衣の姿で、幼子にしては五〇センチの背丈で、女の一人がおぶさっている赤子はもっと小さく二〇、三〇センチの大きさである。ただ一つ、男は青灰色の肌に対し、女は乳桃色の肌であった。数もそんなに数えるほどの少なさで一〇〇人しか満たないだろう。

「ブリック、この人たちなんなの?」

「ハーフズ星では長身で黒髪黒眼に白い肌の住民ばかりかと思われていたが……このような種族もいるとは、情報録には詳しく書かれていなかったぞ」

 ピリンが小人族の集落を見つめ、ブリックが考え込んでいると、岩屋の一つから一人の人影が出てきた。

「ハーフズ星の古代原住民プルア族だ」

 その人影はピリンとブリックの方に近づき、薄い雲の隙間から入ってくる月の光で照らされ、顔が映った。スリムな長身、短く刈った薄茶色の髪、切れ長の青碧の双眸、青い軍事ジャケットと青い迷彩パンツと黒い軍靴のヒューマン型星人の男……。

「あんたはハインヒルドか?」

 ブリックは男の顔を見て訊ねた。ラクレス将校から手に入れた情報のレプリカント兵士その者だったからだ。

「ああ、そうだ。かく言うあんたもレプリカントだろ?」

 ハインヒルドはブリックを見つめる。

「そうだ。私は流浪兵団ワンダリングスのブリック。こちらはピリンだ」

「よ……よろしく」

 ピリンは目線を上にして、ハインヒルドにあいさつする。

「ワンダリングスの事は知っているぜ? 確か連合軍の依頼によって星域や惑星の問題を片づけるフリーの兵団……。そのメンバーの中に作業型レプリカントが所属しているって事もな。それが、あんた」

 ハインヒルドはブリックにワンダリングスの知っている限りの情報を話した。

「ああ、そうだ。私達は連合軍に依頼されて、あんたを逮捕しに来た。ニュー星域連合軍将校にケガを負わせて偵察艇を奪って逃げたあんたをね」

「……」

 ブリックから連合軍少将傷害と偵察艇奪取の件を聞いたハインヒルドは沈黙した。

「えええええ!? この人なの!? ピリンたちがちゅかまえようとしているれんごーぐんのだっそーしゃは!」

 ピリンはハインヒルドの顔と素性を知ると、ブリックにしがみついた。

「これから捕まえていこうと思っていたが……武器と端末がなければ艦長達と連絡が取り合えないからな。私とピリンが監視するしかない」

「そうしたほうがいいぉ。じょーしをきじゅちゅけてにげて、この人たちにかくまってもらってるなんて、ずーずーしいにもほどがあるぉ」

 ピリンがそう言うと、ハインヒルドは掌を向けてきた。

「じょうちゃん、実はプルア族の事なんだが……」

「?」

 ハインヒルドはピリンとブリックに話した。

 ハインヒルドは今から二十三年前、指名手配の犯罪者を追っているさ中、横切った隕石と自分の乗っていた宇宙艇が衝突し、ハインヒルドは宇宙艇ごとハーフズの山間部の集落に墜落した。

 レプリカントだったので死なずには済んだものの、宇宙艇は大破して脚も再生するのに十時間もかかるくらいの傷を負い、通信機も壊れ、ハインヒルドは連合軍非加入惑星のハーフズに取り残されたのである。

 硝煙と燃料の匂いと冷たい空気がさらす中でハインヒルドは薄暗い森の中で横たわり、偶然狩りに来たプルア族によって助けられ、介抱されたのだった。

 プルア族の言葉はハインヒルドでも解読できなかったが、表情と行動でコミュニケーションをとり合い、ハインヒルドとプルア族は友情を深めていったのだった。

 ハインヒルドの傷が完治すると、プルア族の族長がハインヒルドを集落近くの岩山の頂に案内した。頂には深い穴があり、そこには水のような青い液体が穴の淵近くまで溜まっていたのだ。山頂から見える景色は近くに緑の木々がある森、森の奥には白や灰色の建物が並ぶ都、都の奥には山頂口の液体と同じ色の海が見え、空は常に雲に覆われて白かった。

「族長、これはい一体……?」

 ハインヒルドは族長に訊ねるが、言葉は理解できず、ハインヒルドに「都に行けば分かる」と促したのだった。

「そう……ですよね」

 ハインヒルドはプルア族と別れて、森をつたって都に入り、都では黒髪黒眼のヒューマン型星人が色つきのメタリックな服をまとい、丸みを帯びた小型のフライトカーやフライトバスに乗り、都で暮らしていた。

 都を歩いている中でハインヒルドは都に住むハーフズ星人は海水を光熱や乗り物の燃料などのエネルギー資源として生活しており、プルア族集落近くの山頂口に満たされていた青い液体が海とつながっており、プルア族は古代と変わらぬ生活、都市に住む移民や種族はエネルギー海を糧にして生活していると知ったのだった。

 街に着いたハインヒルドは連合軍に帰るために資金集めのために半年ほど街に滞在し、修理工や塗装士、土木作業で稼いだ。資金が貯まるとハーフズ星の宇宙港へ行き、連合軍加入惑星行きの宇宙艇に乗り、半年滞在したハーフズを去っていった。

 ニュー星域の某連合軍加入惑星で連合軍ニュー星域支部に連絡し、ハインヒルドは七ヶ月ぶりに連合軍に戻ってこられたのである。ハインヒルドが負っていた使命は灰の犯罪者は他の連合軍によって捕らわれて、監獄ステーションに収監されたのだった。


 連合軍に戻ってきたハインヒルドは上層部に七ヶ月間の不在理由を説明した。連合軍非加入惑星で墜落、ハーフズの古代原住民から介抱される、都市に住むハーフズ星人は海をエネルギー資源にして生活、文明や文化を説明したのだった。

 上層部はハーフズ星には一切干渉せず、また連合軍非加入惑星のままにすると決定した。

「成程。それであんたはプルア族と友人な訳か」

 ブリックはハインヒルドの過去を聞いて納得した。

「としにきたときしゃ、はたりゃくのはよかったけりぇど、レプリカントって四〇日に一どはメンテナンスがひちゅようだったでしょ。ハーフズにもレプリカントいたの?」

「ピリン、私のような作業型レプリカントとハインヒルドのような戦闘型レプリカントとは体の仕組みが違うんだ。

 製造センターで戦闘に適したとみなされたレプリカントはセンターで手術を受ける。攻撃や防御の強化の半面、毎日四〇〇〇キロカロリーの食事の摂取、メンテナンスも二〇日に一度という不利点が起用される。どのレプリカントも条件は同じではないのだよ」

 ブリックはピリンに教える。

「そうだ。俺は適性検査で戦闘型に改造され、ヒューマン型星人より多めの食事も採らなけれなならない。

 ハーフズで帰還の資金を集めていた頃は、稼ぎの半分を食費とメンテナンスに費やしていた。二〇日のうちの二十四時間をメンテナンスに当てられらなかったこの星で、毎日レプリカントに必要な栄養剤を自分で調合して、注射していたんだ」

 ハインヒルドはハーフズ星での戦闘型レプリカントの生き方をブリックとピリンに教えた。

「話を戻そう。ニュー星域の上層部はハーフズ星を連合軍非加入惑星のままにして置いた後、俺は兵士として戦場に出たり辺境先での任務をこなして過ごしてきた。

 だが、今から五年前だった。俺の上官である連合軍将校がどうやって知ったのは知らんがハーフズ星の海が優れたエネルギー資源と知ると、その内ハーフズ星へ出航して、「海」の独占権を手に入れるためにハーフズの首脳に迫り、連合軍に入って「海」の独占権譲渡を免れるか連合軍に入らない代わりに「海」の独占権を譲渡するか選べと脅してきたのだった。

 ハーフズ星人は戦う事を知らないし、プルア族をはじめとする古代原住民も外星での戦いを望まない。ハーフズ星の首脳は「海」の独占権をその将校に譲った……」

 ハインヒルドの話を聞いて、ブリックとピリンは呆然とした。連合軍の将校がこんな欲深な事をするなんて、と。

「そうか。ハインヒルドの上官がハーフズの『海』を独占した為に海が減少したのか。それで、海が減ってから都民はどうやって生活していたんだ?」

「海のエネルギーは安上がりだったから、『海』を独占した連合軍の将校は大型戦艦の燃料として手に入れた後、都民に他の惑星のエネルギーで暮らすように告知した。

 ハーフズ星人が近くの惑星で買ったエネルギーは高く、フライトカーやフライトバスの使用は中止となり、住民は徒歩やアナログ自転車、搬車に家畜を引かせて移動しなくてはなり、税金も高くなり、若者をはじめ幼子や老親がいる者は他の惑星へ出稼ぎしなくてはならないほどの状況となった。

 そしてその将校はつい最近になって、ハーフズ星を正式な連合軍の所有惑星にすると決定した。

 ただでさえ、『海』を独占されて友や家族と別れて出稼ぎに行かなくてはならない者もいるというのに、平らな森を切り開いて海だった場所も埋め立てて連合軍の基地にしようとしていた。

 俺は反対し、上官と大もめになった……」

 ハインヒルドの話を聞いて、ブリックは顔を険しくし、ピリンは引いた。

「ま、ましゃかじょーしをうっちゃた……!?」

 ピリンはブリックにしがみついた。

「貴様っ……!」

 ブリックはハインヒルドを睨みつけ、ハインヒルドは掌を向けて首を振った。

「違う! 俺はやっていない! 俺は確かに上官ともみ合いになった! けれど上官が撃たれたのは大きな誤解だ!」

「何だと……!?」

「本当は上官がハーフズ星の連合軍所有活動に反対した俺を撃とうとしたのは上官の方だった。ところが、エネルギーパックが古いモノだったのか、銃が暴発してその爆音と銃撃音で他の連合軍兵と将校が駆けつけて、負傷した上官と近くにいた俺を見て勘違いしたんだ。

 軍の上層部に反したレプリカント兵は有機生命体の兵より重い罰、〈抹殺処分〉が下される。俺は逃げだして、偵察艇の一機に乗ってハーフズ星へ逃げた……」

 ハインヒルドの話を聞いて、ブリックとピリンはしばし沈黙していたがブリックは口を開いた。

「どうやら嘘ではなさそうだな。もしこれが虚言ならば、上官の事を悪く言っている筈だ。将校は銃の暴発は思いがけない事とはいえ、それを利用してハインヒルドに撃たれたと連合軍や我々ワンダリングスに告げたのだったな」

「そうだよ。上官はそういう事にしたんだろうな……」

 ハインヒルドは口をごもらせる。

「もし、れんごーぐんがきたりゃ、ほんとのことをいえばゆるしてもらえるとおもうぉ。『あれはじこでした』でしゅむんだし」

 ピリンがハインヒルドに自白すれば助かる、と教える。

「ピリン、事故といえど、自首したって〈抹殺処分〉から〈過失傷害〉と〈連合軍不当脱退〉でそれなりの懲役を受ける事になる。真実を伝えれば、全てチャラは甘すぎる」

「……」

 ブリックに悟られてピリンはうつむく。

「本当の事を後になってから教えたのは悪く思っている。だけど、俺はプルア族のみんなや穏やかに暮らしているハーフズの住民や生物の暮らしを壊したくなかっただけなんだ……」

 それからハインヒルドは胸の中にしまっていたブリックとピリンの携帯端末を取り出した。

「これを取り上げたのも悪かった。武器も返す。やがて連合軍の一部隊がハーフズに来て、俺を抹殺処分に下すだろう。これで、ブリックの仲間達に真実を伝えてほしい」

「ああ」

 ブリックは携帯端末を受け取ると、起動させてメールモードにし、画面に表示された文字を打ち込んで、ウィッシューター号のメインサーバーと艦長ら四人の携帯端末に、ハインヒルドの事実とプルア族の集落にいる現状況の文書を作成し、送信した。

「かんちょーたち、きじゅくかなぁ」

「大丈夫だ。伝わるさ。連合軍の一部隊が来るという事は、ニュー星域連合軍にワンダリングスの後をつけさせていた、って訳か」

 連合軍の依頼を受け続けて必ず従ってきたワンダリングスであるが、もしかしたらハインヒルドとプルア族の件で連合軍と張り合うかもしれない、とブリックの頭の中によぎったのだった。

 そして森野近くの岩場の平地に停泊させたウィッシューター号ではリブサーナも艦長もアジェンナもドリッドも、明け方になるまで休眠をとっていた。