4弾・2話 霧幻が見せた肖像 



 ウィッシューター号に積んである食糧がなくなりそうだったため、ワンダリングスはミスティアーノ星で食糧調達するために宇宙艇を平原で停泊させて、三組に分かれて行動した。

 リブサーナとアジェンナは水辺へ行って魚釣りへ。連絡用の携帯端末や救急キットなどの道具、護身用の携帯銃や武器の他、リール付きの釣り竿や魚を捕らえるための網やクーラーボックスも持って。

 ミスティアーノ星の着陸先の地域は暖かで空気は清々しく、風も穏やかに吹き、緑色の芝生に赤い粒状の実をつける低木や芝生に咲く黄色いユリに似た花や青い雛菊に似た花が何種類も咲いており、赤白ブチのウサギに似た生き物が野を駆けまわっていたり、白いヒワのような鳥が濃緑の葉のなる高木の枝に泊って囀る姿も見られた。

「本当に鳥や動物や魚や虫や爬虫類だけなんだー……」

 リブサーナはミスティアーノ星の生物を見て感心した。今日のリブサーナの服は常盤緑のふかぶかなチュニックシャツに純白の木綿パンツと茶色い革の網あげブーツで釣り竿を肩から下げ、髪にはシャツと同じ色のヘアバンド。

「人間がいないというよりは、ミスティアーノ星は様々な霧が発生しやすいから人間には住みづらいんだろうけど……」

 アジェンナは紫の光沢ジャケットに薄ピンクのインナーとベージュのワークパンツ、そして足元は黒い皮革の網あげブーツである。リブサーナと同じ必需品入りの腰バックの他に魚を入れるクーラーボックスと投網を肩からさげていた。

 川へ着くと、川には灰がかった白や青や黄色の小石が敷き詰められており、透き通った水の中には緑色の藻や白っぽい砂が見え、川の中には水棲昆虫の幼虫や成虫、カエルやイモリのような両生類が泳ぎ、赤や青や黄色や白の鱗や大小や体型の異なる魚が泳いでいた。

「うわ〜、きれいだなぁ。こんなにカラフルだと食べるのがもったいなく感じるよ」

 リブサーナが水中の魚を見て述べた。

「なんなら、大きくて地味な魚にすれば? カラフルなのが惜しいのは残してさ」

 アジェンナがリブサーナに呆れたように言うと、リブサーナは気まずく感じて釣り座を出し、更に釣り針に魚が好きそうな餌――冷蔵庫の余り物のピンクの魚卵、クシー星域の宇宙市場(コスモマーケット)で買ったペペルーの魚卵を釣り針に引っ掛けて川の中へ入れた。アジェンナもペペルーの魚卵をリブサーナのいる処から三十歩離れた場所に投げ入れて魚をおびき寄せた。川の中の魚達は見た事もないピンクの魚卵に群がって食べ始めた。五匹六匹と集まっていく中でアジェンナは編みを投げ入れて一度に十三匹の魚を捕まえたのだった。どの魚も手の中に入る魚ばかりで、ウロコやヒレが明るい色のやつばかりだった。リブサーナはというと、黒や茶色の地味で大きな魚が釣り針にかかるのを待った。


 グランタス艦長とドリッドは森の中へ入り、獣肉を手に入れに踏み入れていった。森の中に靄(もや)が入るが、木々や生き物の姿は見られる事ができた。森には様々な木の実や草の実、茸や山菜が生え、黒とピンクの羽毛を持つ鳥が木の実をついばんだり、鹿の親子が低木の葉や草の芽を餌にして食べていた。

「ドリッド、獣をかるなら大きな牡にしておけ。牝や子供は流石にまずい」

「わかってますって」

 二人の所持品は狩り用の弾丸長銃、必需品入りの腰バッグ、護身用の携帯銃とダガーナイフ。艦長もドリッドも他の生物からの害や枝や草で傷つかないように厚手の迷彩上下を着ており、靴も革長靴である。ミスティアーノ星の鹿は角が二又で黒と黄色の毛で覆われていた。よく見てみると、牝の方が角が小さく、牡の方が牝の二倍の長さの角であった。

「あと出来れば鳥肉も欲しいんですけどね……」

「鳥もなるべくでかいやつにしておけ」

 ドリッドが艦長に注文を増やすと、艦長は鳥も大きいのにするように促した。


 ピリンとブリックは艦長・ドリッドとは別の方角の森へと山菜と木の実、キノコを採りに足を向けていった。山菜と木の実狩りがブリックなのかというと、人造人間レプリカントであるブリックには宇宙のあらゆる鉱物や植物などの知識が豊富であり、万が一に毒キノコや毒性のある実や草をピリンが手にしたとしても、ブリックがその分別ができるからである。

 森の中には様々な大きさや羽毛の色の鳥が木の枝や木のうろの中に巣を作って巣の雛鳥がピィピィ鳴いており、リスとおぼしめられる黄色い毛にふさ尾の獣が木の実を手に持ってかじっており、森の木々も黄色い実や赤や青の実をつかせ、木の葉の大きさも幹の色や棲みつく虫も異なっていた。木の根には赤や白のキノコが生えており、内巻の葉やぎざぎざ葉の草も生えていた。

「ブリック……。きのこやくさのどくのあるなしってどんなの?」

 ピリンがキノコや山菜を採ろうとするブリックに尋ねる。ピリンの服は色縁の白いドレスに対し、ブリックは青い光沢の全身スーツで白い合皮革手袋とブーツを身につけている。

「木の実は森の生き物の食べ跡をみれば人間に影響がない

事がわかる。草は草食動物の足跡やかじった跡、キノコは虫が群がっていれば食べられる証拠だ。見ろ、赤い斑点に白い地肌のキノコには虫はいないだろう?」

 ブリックがキノコの一つを指差す。赤い斑点に白い地肌のキノコや青いキノコなどの派手な色のキノコには虫はおらず、茶色や小さな白い束がいくつも集まっている白キノコには虫が群がっていた。

 ブリックは虫が群がっているキノコに近づくと、虫はその気配を察すると翅を動かして飛んでいき、根元からキノコをもいだ。もいだキノコは手提げかごに入れ、葉っぱは草食動物の食べ跡がないのは毒草だと判別して避け、次々に食べられる山菜を採ってカゴに入れていた。

 ピリンも動物が食べた木の実や果実を調べてクルミやハシバミやアーモンドや栗に似た木の実、大小長短赤青黄緑の果実を集めてカゴの中へ入れていた。

 ピリンは木の実や果実を集めていると、木の実や果実を集めていると、木の実を沢山入れ過ぎたからなのか、それとも森の動物が触ったのか集めた木の実が森の斜面を転がっていくのを目にしたのだった。木の実はころころと転がり、ピリンは実を追いかけていった。

「あ、まてぇ!!」

 ピリンは斜面を転がる木の実を追いかけていった。斜面はでこぼこしており、小石や草の分けに挟まった実はすぐ見つかって拾えたが。大きな梨や李はこのまま転がっていった。ピリンは夢中になって追いかけていき、梨や李を手にしたが、斜面はさっきよりも急になっており、ピリンはそのまま転がり落ちていったのだった。杖を出して妖獣を呼び出す事もできずに。


「う……」

 ピリンは目覚めると、純白の霧に包まれた空間にいた。晴れている云々の前にミスティアーノ星は年中霧に覆われているので雨や雪はあっても晴天はなく、前も後ろも左右もわからなかった。だけど地面だけは薄茶色の乾いた土に灰茶がかった雑草しかない事には把握できた。

「ど、どうしよう……。どこだかわかんないぉ……」

 ピリンは自分が森とは違い場所に落ちてしまった事を知ると、不安と混乱に陥った。

「あっ、しょーだ! ちゅーしんきがあったんだっけ……」

 ピリンは報連相用の携帯端末を取り出して、大人の掌に入る画面タッチ式のパネルを触って仲間に助けを求めようとした。だが……」

「あ、あれぇ!?」

 通信機にガリガリ、ザザーという雑音しか入らず、ピリンは表情が凍りつく。

「こ、こわれた……? しょれともでんぱがとどかないの?」

 ピリンがおろおろしていると、ミスティアーノ星に入る時、宇宙艇の立体モニターに映し出されたミスティアーノ星での注意を思い出していたのだ。その一つが、〈時々、機器の電波などを狂わせる霧も発生する〉であった。

「ちゅーしんちゅかえないきりもあったんだっけ……。ブリック、ピリンがいなくなったことにきじゅいてくれるかな……。こんなとき、どぉしよぉ……」

 ピリンはうろうろしだした。機器を狂わせる霧の包まれている場所に居て、前も後ろもわからず、妖獣を召喚しようとしたが、どの妖獣を召喚すればいいか悩むのだった。その時、ザッという音がして、ピリンの目の前に一匹の四足獣がいたのだった。

 全長は二メートルもないが大きくて四肢はヒヅメ、角は二本の鈎のような黒曜で、毛の色は白の中に灰色の斑紋が入っている緑の目の獣だった。ミスティアーノ星に生息する草食獣クリンブルである。

「ほわっ」

 ピリンはクリンブルを見て驚くが、クリンブルはピリンに背に乗れ、というように頭を動かした。

「の……のっていいの……?」

 クリンブルはピリンを背に乗せて。霧の中の地を歩き出していった。

「あ……ありがとぉね……」

 ピリンは見ず知らずの自分を乗せてくれたクリンブルに礼を言った。クリンブルは三、?

百歩進んだところで立ち止まり、そこの青灰色の岩肌の大石の裏にはピリンより少し大きい子供のクリンブルが二匹いたのだ。角は生えていないけれど、親と同じ目と毛色で子供クリンブルが母クリンブルに駆け寄って腹の乳房にしゃぶりついたのだった。

(なんでピリンをここにちゅれてきたんだろう……)

 ピリンが首をかしげていると、母クリンブルの胸元に果実の皮のかけらや種子の外皮がついていたのだ。ピリンが母クリンブルがピリンが落とした木の実を食べたお礼としてピリンを安全(だと思われる)自分の巣へ連れて行ってくれたのだろう。

(たちかにこのいわのうちろにいれば、こわいけものにあわなくていいのかも。どうやってみんなにいまのばしょをおちえたら……)

 霧は濃いし、方角もわからないし、危ない生き物もいそうだし、ピリンは考え続けていた。親クリンブルが子供クリンブルに父をやっているのを見ると、自分も空腹だった事に気づいて、腰ポシェットから非常食のエネルギースナックとチョコバーをひと袋ずつ取り出す。麦粉と豆乳、様々な種子類やドライフルーツを入れて焼いたスナックは様々な栄養を吸収し、チョコバーはフリーズドライさせたサンダーバナナや岩石いちごが入っている。全部食べたら後で困るので、ひと袋だけにしておいた。

 クリンブルの親子は授乳と乳呑みが終わると、互いの体を寄せ合って寝入ったのだった。ピリンは身を寄せ合って眠るクリンブルを見つめ、自分と母の姿を思い出した。寒い時や外の強風や豪雨が魔物の叫びのように怖くて眠れない時は、母の元へ来て一緒のベッドで朝まで寝ていたのだから。ワンダリングスに入ってからは、一人で寝るようになったけれど……。

 その時だった。ピリンは岩の隙間に誰かが立っているのを目にしたのだ。仲間だろうか? いや、ピリンによく似た若葉緑の巻き毛に先端の尖った耳、背に細長の四翅にパリゼットミルト製の青い生地に白い飛沫模様の衣をまとった女の人――。

「マ、ママ!? ママ、なんでここにいるの!?」

 ピリンは故郷のフェリアス星の旋風(サイクロン)による災害で亡くなった母の姿を目にしたのだった。


「ママ、ママ、まってよぉ!」

 ピリンは亡き母メイヴリンを見つけてクリンブル親子の巣から飛び出していき、メイヴリンはピリンが近づこうとするたび、後方へ下がっていくのだ。

「ママ、なんでピリンからはなれていくの? まってよぉ!  はなしたいこと、いっぱいありゅのに……」

 ピリンは母メイヴリンを追いかけていき、メイヴリンはピリンが近づくたび下がり、ようやく母が立ち止まった時だった。

「マ、ママ……」

 ピリンが母に触れようとした時だった。

「ゴルルルル……」

 獣の唸るような火山が噴火するような音がして、ピリンは正気になった。その途端に母の姿も消えて、最も霧の濃い場所から赤い光が二つ出てきて、のっそりと体を出してきたのだった。

「ひっ、ひぇっ!!」

 ピリンは濃霧の中から出てきたそれを見て悲鳴を上げたのだった。体は軽く六メートルはあり、岩と同じ茶色の地肌に横幅は八メートルあり、大きな裂けた口に細かいノコギリ歯がびっしり並び、頭には突起があってぶら下げたような球体のつるべがあり、そのつるべは青白く、横幅の長い体には水かきと鋭い爪のある手足が有り、深海に棲む魚アンコウと泥沼のヒキガエルを合わせたような姿であった。

「こ……こんなのもいたなんて……」

 ピリンが怪物を見て後ずさりすると、何かに足がぶつかり周囲には様々な動物の骨がいくつも転がっていたのだ。

「ひ、ひぇ……!」

 ピリンがその怪物の餌食になった動物の残骸を見て恐怖にひきつった。その中にはクリンブルの骨もあった。

(あのクリンブリュのおかーさんとこどもたちのおとーさんはあいちゅにたべられたんだ。ピリンをじぶんのすにちゅれていってくれたのは、ピリンをあいちゅからまもってあげようと……!?)

 ピリンはクリンブルが自分を巣へ連れてってくれたのはピリンが落とした木の実のお礼ではなく、怪物から守ってあげようとした母性本能だった事に気づいた。

(だったら、こんどはピリンがたしゅける!!)

 クリンブルの親子を助けるため、ピリンは母メイヴリンの形見の宇宙真珠と紅水晶の花でできた杖を出して、呪文を唱えた。

「エステ・パロマ・ダ・バオネーシャ!!」

 ピリンはフェリアス星から妖獣を召喚する呪文を唱えて、フェリアス星から一頭の巨大な幼獣、二メートル声の高さに堅い皮膚と扇形の大耳と長鼻を持つ像に四本の牙と頭に楔状の角と八本の丸太のような脚を持つ妖獣バオネーシャを召喚したのだった。

「バオちゃん、あいちゅをやっちゅけて!!」

「バオオオオオ!!」

 バオネーシャは唸り声を上げて怪物に立ち向かった。


 その一方でピリンがいなくなった事に気づいたブリックは。一旦自分の不注意に悔やむも、艦長達にすぐ連絡をして、艦長はウィッシューター号に乗って、山菜や木の実の採れる森の斜面にピリンが転がったと思われる草や土の跡を見て、ピリンが斜面のすぐ下の濃霧の渓谷に落ちていった事を悟ったのだ。リブサーナとアジェンナ、ドリッドもウィッシューター合の中に乗り込み、コックピット窓に表示されたサーモグラフ機能でピリンを探したのだった。

「現在地より十一時の方角に生体反応を確認」

 アジェンナが操縦席のコックピットモニターで生命体の体温を調べられるサーモグラフシステムでピリン、バオネーシャ、クリンブル親子、そして怪物の姿を確認して見つける。温もりのない青は霧や土や死骸、緑から黄色→橙→赤と外側から濃くなっていく部分は生命体を表していた。

「ミニーシュート号を出せ! ピリンを助けに行け、ブリック、ドリッド!」

「了解(ラジャー)!」

 渓谷はウィッシューター号の大きさでは入れない幅だったので、小型宇宙艇ミニーシュート号にドリッドとブリックが乗り込み、ウィッシューター号を小さくさせたミニーシュート号に乗ってピリンの救出に向かっていった。


「バオオーン!!」

 バオネーシャは自身の牙で怪物とぶつかり合っていたが、怪物は頭部の突起でバオネーシャに振り子のようにぶつけてきた。バオネーシャの額の一部に当たるが、バオネーシャも負けじと自分の長い鼻で怪物の突起に絡みつかせて引っ張り合った。

「バオオ……」

 バオネーシャより怪物の方が体が大きく、丸太のような四肢が地面を引きずらせて痕をつける。

(バオちゃんだけじゃムリかも……。ほかのようじゅうもよびたいけど……)

 幼獣使いが一度に一体の妖獣を召喚させるのには問題ないが、一度に二体以上呼び出すと、召喚させる者の体力と精神力の消費が激しいため、ましてや高レベルのバオネーシャ一頭sでも負担がかかるため、小さな体のピリンにはきつかった。

 バオネーシャはかいぶつのに押されて、とうとう叩きつけられてしまた。

「バオオオーッ!!」

 ドドーン、と轟音が渓谷に鳴り響いて地表が震え、真横に倒されたバオネーシャは淡いピンクの煙と共に消えてしまった。

「あああ……、バオちゃん……」

 ピリンは膝まづき、怪物がピリンとクリンブル親子を狙って襲いかかろうとしたその時だった。

 ドドーン、バーンと炎の爆ぜる音が鳴り、怪物の背中に赤い爆炎が降り注いだのだった。

「……!?」

 ピリンが目を凝らしてよく見てみると、炎で霧が晴れて、ミニーシュート号が降りてくるのを目にしたのだった。

「あれは……!」

 ミニーシュート号に装備された小型直射ミサイルが怪物に浴びせられたのだった。

「グガアアアア……」

 怪物は断末魔を上げて、そのまま火に包まれて燃えていったのだった。


 ミニーシュート号はピリンとクリンブル親子の前に降り立ち、中からドリッドとブリックが出てきた。

「ピリン、大丈夫か!?」

「遅れてすまない!!」

 仲間が迎えにきたのを目にしたピリンは、何を言えばいいかまごついていると、ブリックがピリンを抱きしめる。

「すまない。私が目を離してしまったばかりに、危険な目に遭わせてしまって……」 

 ブリックは泣いたり取り乱したりはしていなかったが、自分が山菜やキノコの毒の有無を調べている時にピリンを見過ごしてしまった事に反省していた。

「危ねぇ、危ねぇ……。あやうくアングリューズの餌食になるとこだったぜ……」

 ドリッドが炎に包まれて黒く変化している怪物の名を呟いた。

「あ、あんぐりゅ!?」

 ピリンが尋ねると、ブリックが説明する。

「ミスティアーノ星の巨大生物で、頭部の突起を光らせて捕食対象の心の中で思っている人物や思い出を霧と混合させて造り出して、おびき寄せて食べる……。

 深海魚のアンコウが突起を光らせて小魚をおびき寄せるように捕食しているから、この名がつけられたんだ」

「しょうだったんだ……」 

 ピリンが濃霧の渓谷で母の幻を見せられたのか、理由がついた。アングリューズは燃やしつくされて黒く炭化して焼き焦げた臭いが渓谷に広まった。生臭い魚のような臭いだった。

 すると、クリンブルの母親が一つのしゃれこうべを見つめているのを目にしたピリンは、胸が痛んだ。

「えっと……」

「でも子供達も大きくなれば、この渓谷を出て野原や森に棲みつくようになるさ……。

 さぁ、ウィッシューター号に帰ろう。みんな待っているぜ」

 ドリッドがピリンに促して三人はミニーシュート号に乗って渓谷を脱出したのだった。


 ウィッシューター号に戻ると、リブサーナが取り乱して泣きながら帰ってきたピリンを抱きしめたのだった。

「うわぁぁぁぁ、ホントにどういしようと思っていたんだよぉ!!」

「ごめんね、サァーナ。ちんぱいかけしゃせて……」

「いや、もう大丈夫。ピリンが帰ってきて、安心したから」

 リブサーナは手で瞼の涙を拭った。ピリンは司令室の床に積み上げられた次の目的地までの食糧を見て、その多さに目を見張る。大きな牡のミスティアーノ鹿が二頭、灰茶の羽毛の山鳩の大型版の山鳥が四羽、アジェンナとリブサーナが釣ってきたクーラーボックスいっぱいの魚は脂がのっており、刺身や焼き魚にしても美味しそうに見えた。そして、様々な大きさや色や形の山菜、キノコ、木の実や種子類。

 その後は鹿の皮や鳥の羽毛や内臓を取り除いたり、魚の内臓を取って真空詰めにしたり、果物や木の実も保存箱の中に入れたのだった。

 そして、ウィッシューター号はミスティアーノ星を飛び立ち、星の煌めく宇宙空間に突入していったのだった。

 ピリンは自分の部屋でアングリューズに見せられた母の幻を思い出していた。

「ママ……」

 ピリンは床マットの上で、母の形見の杖を見つめた。ピリンの母はもういない。故郷の星の村にも戻る事が出来なくなっていた。

(しょれでも、ピリンはいきていりゅんだ。そちて、ピリンのママのいないしゃびししゃをりよーちたアングリューズはたおしゃれてとーぜんだぉ!)

 最後にアングリューズへの怒りを向けると、寂しさや母恋しさはなくなっていた。

 他にもピリンに待ち受けていた試練はあったけれど、艦長達や妖獣のおかげで持ちこたえられたのだから。